<長崎平戸、薄香漁港>
テレビドラマ「青い鳥」のロケ地を訪ねて、数年前だが、遠路はるばる青森県八戸漁港の「漁港ストア」までいってしまったことがある。
今回もまあ、そんなようなものだ。
高倉健の映画といえば「網走番外地」や「昭和残侠伝」など任侠シリーズが有名だが、わたしが好きになったのは「幸福の黄色いハンカチ」と、「駅 STATION」くらいからだ。どちらも、わたしにちょっぴり土地勘がある北海道が舞台であり、後者では増毛の居酒屋「桐子」の女将(倍賞千恵子)とのシーンで八代亜紀の「舟唄」が印象的に使われていたのが記憶に残る。
そして、旅好きなわたしがハマったのが遺作となった西日本が舞台の「あなたへ」である。
長崎県平戸の薄香(うすか)漁港は、2012年8月に劇場公開された「あなたへ」のロケ地だ。この映画には、わたしが好きな門司港あたりでの撮影シーンもかなり多い。
なお、この映画の脚本(青島武)をもとに、森沢明夫が小説にしている。
富山刑務所の嘱託指導教官である倉島(高倉健)は、長崎県平戸の郵便局に七日間と期限付きで保管されている、亡き妻の二通目の遺言を受取るために一人旅に出る。
炊事と寝泊まりできるように改造したワンボックスカーの、助手席にバッグに入れた遺骨を積んで、富山、飛騨高山、京都、大阪、竹田城、瀬戸内、下関、門司を通り、そして妻の故郷の薄香へ。
妻からの遺言の一通目には、<わたしの遺骨は、故郷の海にまいてください>と一行だけ書かれていた。
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『無数の島がぽこぽこと浮かぶ風光明媚な渚を右手に眺めながら、さらに西進し続けると、ふいに平戸大橋が現れた。
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この橋を渡れば、そこはもう平戸島だった。
つまり、薄香は目と鼻の先ということになる。』
『薄香は、私が想い描いていたとおりの、静かでこぢんまりとした漁村だった。昭和の風景がそのままロケセットとして
残っているような、なんとも懐かしい港町なのだ。』
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『薄香の港の周辺には、いくつか空き地があった。キャンピングカーの旅人にとっては好都合だ。私は車を回し、
港にもっとも近い空き地の隅に停車させた。』
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『こぢんまりとした集落には、迷路のように細い路地が張り巡らされていた。私はあえてその迷路に飛び込んで、
気の向くままに拾い歩きをした。』
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『薄香の家々は、どこも塀が低く、歩いていると家のなかが丸見えだった。生活が外に向かって開かれているのだ。
高い塀で隣家との関係を断ち切る都会とは、明らかに日々の営みの趣が違う。』
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倉島は露地の奥にみつけた富永寫眞舘(写真館)のショーウィンドーのなかの古ぼけた写真をみつめているうちに、その写真のなかの少女の姿に妻の若かりしころが重なり、感極まって思わずガラス戸をこぶしで叩いて「ありがとう!」と口に出してしまう・・・。
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映画では、実在している「薄香郵便局」を使わず、「薄香公民館」の建物を使用して撮影された。
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『郵便局は朝の九時ちょうどに開いた。
窓口のおばさんは、シャッターを開けるのと同時に入ってきた私に、少し面食らったような顔をしていたが、
局留め郵便を受け取りに来たと言うと、「ああ」と、得心の表情になった。この小さな集落の郵便局に、
局留めは珍しいのだろう。
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「はい、どうぞ」
「どうも・・・」
私の手の中に、白い封筒がおさまった。』
亡き妻からの二通目の遺言はなんとも心にしみる文章(抜粋)が綴られている。
『(略)どうか、あなたは、あなたのこれからの人生を、自由に心ゆくまで生きてください。
今回の旅は、わたしが強引に誘い出しましたが、これからのあなたには、あなただけの「一歩」があると思うのです。
その一歩を踏み出して、どんどん素敵な人生を歩んでいってください。
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たまに、わたしのことを思い出してくれたなら、いちばん近くの海に来てくださいね。わたしはこの小さな島国を
ぐるりと取り囲んで、いつでもあなたの幸せを祈っています。
いま、嘘偽りなく、いえます。
あなたと出会えたことは、わたしの人生における最良の奇跡でした。
出会ってくれて、本当にありがとう。
心から。』
幻冬舎文庫刊 森沢明夫著「あなたへ」より
いい映画である。わたしは地上波テレビで観たのだが、もしも映画館でリバイバル上映するようなことがあれば、ぜひとも大きいスクリーンでもう一度観てみたい。
→「八戸、漁港ストア」の記事はこちら
→「門司港界隈(1)」の記事はこちら
→「門司港界隈(2)」の記事はこちら
→「門司港界隈(3)」の記事はこちら
→「門司港界隈(4)」の記事はこちら
テレビドラマ「青い鳥」のロケ地を訪ねて、数年前だが、遠路はるばる青森県八戸漁港の「漁港ストア」までいってしまったことがある。
今回もまあ、そんなようなものだ。
高倉健の映画といえば「網走番外地」や「昭和残侠伝」など任侠シリーズが有名だが、わたしが好きになったのは「幸福の黄色いハンカチ」と、「駅 STATION」くらいからだ。どちらも、わたしにちょっぴり土地勘がある北海道が舞台であり、後者では増毛の居酒屋「桐子」の女将(倍賞千恵子)とのシーンで八代亜紀の「舟唄」が印象的に使われていたのが記憶に残る。
そして、旅好きなわたしがハマったのが遺作となった西日本が舞台の「あなたへ」である。
長崎県平戸の薄香(うすか)漁港は、2012年8月に劇場公開された「あなたへ」のロケ地だ。この映画には、わたしが好きな門司港あたりでの撮影シーンもかなり多い。
なお、この映画の脚本(青島武)をもとに、森沢明夫が小説にしている。
富山刑務所の嘱託指導教官である倉島(高倉健)は、長崎県平戸の郵便局に七日間と期限付きで保管されている、亡き妻の二通目の遺言を受取るために一人旅に出る。
炊事と寝泊まりできるように改造したワンボックスカーの、助手席にバッグに入れた遺骨を積んで、富山、飛騨高山、京都、大阪、竹田城、瀬戸内、下関、門司を通り、そして妻の故郷の薄香へ。
妻からの遺言の一通目には、<わたしの遺骨は、故郷の海にまいてください>と一行だけ書かれていた。
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『無数の島がぽこぽこと浮かぶ風光明媚な渚を右手に眺めながら、さらに西進し続けると、ふいに平戸大橋が現れた。
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この橋を渡れば、そこはもう平戸島だった。
つまり、薄香は目と鼻の先ということになる。』
『薄香は、私が想い描いていたとおりの、静かでこぢんまりとした漁村だった。昭和の風景がそのままロケセットとして
残っているような、なんとも懐かしい港町なのだ。』
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映画では、実在している「薄香郵便局」を使わず、「薄香公民館」の建物を使用して撮影された。
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窓口のおばさんは、シャッターを開けるのと同時に入ってきた私に、少し面食らったような顔をしていたが、
局留め郵便を受け取りに来たと言うと、「ああ」と、得心の表情になった。この小さな集落の郵便局に、
局留めは珍しいのだろう。
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「はい、どうぞ」
「どうも・・・」
私の手の中に、白い封筒がおさまった。』
亡き妻からの二通目の遺言はなんとも心にしみる文章(抜粋)が綴られている。
『(略)どうか、あなたは、あなたのこれからの人生を、自由に心ゆくまで生きてください。
今回の旅は、わたしが強引に誘い出しましたが、これからのあなたには、あなただけの「一歩」があると思うのです。
その一歩を踏み出して、どんどん素敵な人生を歩んでいってください。
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たまに、わたしのことを思い出してくれたなら、いちばん近くの海に来てくださいね。わたしはこの小さな島国を
ぐるりと取り囲んで、いつでもあなたの幸せを祈っています。
いま、嘘偽りなく、いえます。
あなたと出会えたことは、わたしの人生における最良の奇跡でした。
出会ってくれて、本当にありがとう。
心から。』
幻冬舎文庫刊 森沢明夫著「あなたへ」より
いい映画である。わたしは地上波テレビで観たのだが、もしも映画館でリバイバル上映するようなことがあれば、ぜひとも大きいスクリーンでもう一度観てみたい。
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→「門司港界隈(2)」の記事はこちら
→「門司港界隈(3)」の記事はこちら
→「門司港界隈(4)」の記事はこちら
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