<大吊橋に挑戦>
「あのぅ・・・橋を渡りきったら、いったいどうやって帰ってくるのでしょうか」
券売所で、わたしは恐る恐る訊いた。
「往復になっていますので、また橋をご利用されてこちらにお戻りいただけます」
はぁ、やっぱり。一粒で二度おいしい・・・ならぬ、たっぷり二度恐怖を味わえるわけだ。
よっぽど買うのをやめようかと迷ったが、後ろに並ぶ客にせかされ五百円払ってしまう。
高いところは大の苦手である。
今回の九州旅の前に、熊本から転勤してきた同僚を交えて呑む機会があった。
大分県玖珠郡九重町にある大吊橋に行ってみようと思っていると話すと、一度橋を渡ったことがあるという。
「あれは下が透けてみえてけっこう怖かったなぁ・・・」
と、ぼそりと言った。
足元の隙間から下が見えると、自分がいま高さのある途方もない空間の上にいることを、突然確かに認識して足がすくみ、身動きがままならなくなるのだ。高所嫌いのひどい人に至っては腰を抜かす。
よっぽど吊り橋はやめようかと思ったが、画像で観るかぎり堅牢な橋のようにみえる。
駄目モト、でやってきたのである。
券は買ってしまった。
こうなれば、行けるところまで行って途中で引き返してこよう。嘲笑したり馬鹿にしたりする同行者はいないひとり旅である。そう、決めたらすこし気が楽になる。
標高七七七メートルのこの地につくられた、この日本一の大吊り橋は高さ百七十三メートル、長さ三百九十メートルあり、大人千八百人の重さに耐えられるという。
左手は欄干の手すりをガッチリ握って、ゆっくりと進む。
橋の幅は一メートル半ほどである。
中央部の床は格子状になっており、たしかに下の奈落が見える。その格子部分がやけに広く思える。
右足はしょうがなく一部を格子部分に載せるが、左足には重心を大目にして格子を踏まないようにしてそろそろと進んだ。
右足を格子に載せた瞬間、その格子が一枚パカッとはずれて格子もろとも、もんどりうって落下するイメージがチラつく。いかん、呼吸が浅く速くなっている。手すりを握った手が汗ばむ。
きっと顔面も蒼白になっているに違いない。
立ちどまって、掌の汗をジーンズにこすりつけた。
橋上に三人ほど配置された警備員が「こいつ、飛び降りるのか!」と不審げな視線を投げかけてくる。
カメラを構え、周りの景色を撮っている演技をしてとりあえず安心させる。
ちびちび進んでようやく中央部まで到達した。
ここまで来ると、だいぶ恐怖心が減じてきている。
戻るか、渡り切るか。
怖さのピークを過ぎたようなので、渡り切ることを選択した。
渡り切って、とりあえず一服すると喉の渇きも食欲も忘れ、すぐにそそくさと引き返すことにした。
復路では、周りの景色も楽しめる余裕もでてきて我ながら驚く。
「震動の滝」は雄滝と雌滝のふたつがあり、雄滝は凄まじい轟音をあげて流れ落ちている。
雌滝もそれなりに滝音をあげているのだろうが、雄滝にかき消されて静かにみえる。
緑したたる九酔渓、鳴子川渓谷の景色もなんとかそれなりに満喫できる。
格子から下が観えて怖いが、堅牢で揺れがすくないので、高所嫌いも一度挑戦してみていいかもしれない。自分が往復し終わった今だからこそ言えるのであるが。
そういえばようやく食欲がでてきた。さあ、遅めの昼でも食べるとするか。
「あのぅ・・・橋を渡りきったら、いったいどうやって帰ってくるのでしょうか」
券売所で、わたしは恐る恐る訊いた。
「往復になっていますので、また橋をご利用されてこちらにお戻りいただけます」
はぁ、やっぱり。一粒で二度おいしい・・・ならぬ、たっぷり二度恐怖を味わえるわけだ。
よっぽど買うのをやめようかと迷ったが、後ろに並ぶ客にせかされ五百円払ってしまう。
高いところは大の苦手である。
今回の九州旅の前に、熊本から転勤してきた同僚を交えて呑む機会があった。
大分県玖珠郡九重町にある大吊橋に行ってみようと思っていると話すと、一度橋を渡ったことがあるという。
「あれは下が透けてみえてけっこう怖かったなぁ・・・」
と、ぼそりと言った。
足元の隙間から下が見えると、自分がいま高さのある途方もない空間の上にいることを、突然確かに認識して足がすくみ、身動きがままならなくなるのだ。高所嫌いのひどい人に至っては腰を抜かす。
よっぽど吊り橋はやめようかと思ったが、画像で観るかぎり堅牢な橋のようにみえる。
駄目モト、でやってきたのである。
券は買ってしまった。
こうなれば、行けるところまで行って途中で引き返してこよう。嘲笑したり馬鹿にしたりする同行者はいないひとり旅である。そう、決めたらすこし気が楽になる。
標高七七七メートルのこの地につくられた、この日本一の大吊り橋は高さ百七十三メートル、長さ三百九十メートルあり、大人千八百人の重さに耐えられるという。
左手は欄干の手すりをガッチリ握って、ゆっくりと進む。
橋の幅は一メートル半ほどである。
中央部の床は格子状になっており、たしかに下の奈落が見える。その格子部分がやけに広く思える。
右足はしょうがなく一部を格子部分に載せるが、左足には重心を大目にして格子を踏まないようにしてそろそろと進んだ。
右足を格子に載せた瞬間、その格子が一枚パカッとはずれて格子もろとも、もんどりうって落下するイメージがチラつく。いかん、呼吸が浅く速くなっている。手すりを握った手が汗ばむ。
きっと顔面も蒼白になっているに違いない。
立ちどまって、掌の汗をジーンズにこすりつけた。
橋上に三人ほど配置された警備員が「こいつ、飛び降りるのか!」と不審げな視線を投げかけてくる。
カメラを構え、周りの景色を撮っている演技をしてとりあえず安心させる。
ちびちび進んでようやく中央部まで到達した。
ここまで来ると、だいぶ恐怖心が減じてきている。
戻るか、渡り切るか。
怖さのピークを過ぎたようなので、渡り切ることを選択した。
渡り切って、とりあえず一服すると喉の渇きも食欲も忘れ、すぐにそそくさと引き返すことにした。
復路では、周りの景色も楽しめる余裕もでてきて我ながら驚く。
「震動の滝」は雄滝と雌滝のふたつがあり、雄滝は凄まじい轟音をあげて流れ落ちている。
雌滝もそれなりに滝音をあげているのだろうが、雄滝にかき消されて静かにみえる。
緑したたる九酔渓、鳴子川渓谷の景色もなんとかそれなりに満喫できる。
格子から下が観えて怖いが、堅牢で揺れがすくないので、高所嫌いも一度挑戦してみていいかもしれない。自分が往復し終わった今だからこそ言えるのであるが。
そういえばようやく食欲がでてきた。さあ、遅めの昼でも食べるとするか。
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