<松江、ヨコワの酒場>
「ヨコワって、いったいなんだろう?」
刺身のところにイサキ、カンパチ、イシダイ、タイと並んで書いてあるから、きっと魚なんだろうが。
以前、萩で出会った「キンタロウ」みたいな旨い地魚だったりするとあとで後悔する。金太郎は足が速いので地元でしか刺身は食べられないのである。よし、訊いてみよう。
「あのォ、すみません。ヨコワってなんなんでしょうか」
そばに店員が見当たらないので厨房への暖簾をくぐって声をかけた。
「本マグロの若いやつ、七キロぐらいのをこちらではヨコワと呼ぶんです」
なんだ、なるほど。関東では「めじ」だがこちらでは「ヨコワ」になるのか。まずはそれを注文することにした。
たしかに食べ慣れているめじ(マグロ)の味だった。
ここは松江の「食酒処 かわばた」という酒場である。
わたしは訪ねた酒場について自分なりのネーミングを秘かに行う。鬼平で出てくる「『相模の』彦十」や盗賊の頭の「『妙義の』団衛門」みたいな二つ名を酒場の名前の前に付けてしまうのだ。例えばその店で妙に旨かった「みょうが」とか「貝盛り」とか「紅しょうが天」とかである。そして、それを記憶の索引にしているのだ。してみればこの店は「ヨコワ」と名付けておこう。
ふむ、石州瓦焼き・・・か。
聞けば、石州(せきしゅう)瓦とは日本三大瓦のひとつで、島根県石見地方で生産されている粘土瓦だそうだ。冷房も効いていて身体もクールダウンしたので、焼き物もいいな。島根沖産イカを頼む。
(おっ、なんとも旨そうなイカだぞ!)
ところが瓦で焼き始めるとたちまち顔色が変わってしまう。あまりの臭さに息ができずに鼻が曲がりそうだ。わかりやすく言えばクサヤ臭に近い。これはきっと「くさや液」に近い魚醤に浸けこんだな。
しかし、食べるとこれが活きのいいイカの味にパンチのある風味が加わってなんとも旨い。なにも付けなくても充分な味わいだ。
えーい、食べながらチビチビ呑む作戦は捨てて、先に焼いてしまうことに作戦変更した。
そして、そろそろ日本酒に切り替えよう。
メニューをみると地酒が三杯のむと四杯目が無料とある。まあ、酔っぱらっても眼の前が皆美館である。数歩あるけば宿の敷地だ。
それに焼酎を二、三杯呑んだので、酒は二杯くらいで充分だろう。おっと、揚げ出し豆腐も追加するか。
酒呑みは、いやわたしは意地が汚い。
二杯で止まらず三杯になり、ということは無料の四杯目まで呑みきったところで記憶が途切れて、深更、ソファでガバッと眼を覚ましたのだった。
→「読んだ本 2009年9月」の記事はこちら
→「鍵曲がり」の記事はこちら
→「松江しんじ湖温泉(3)」の記事はこちら
「ヨコワって、いったいなんだろう?」
刺身のところにイサキ、カンパチ、イシダイ、タイと並んで書いてあるから、きっと魚なんだろうが。
以前、萩で出会った「キンタロウ」みたいな旨い地魚だったりするとあとで後悔する。金太郎は足が速いので地元でしか刺身は食べられないのである。よし、訊いてみよう。
「あのォ、すみません。ヨコワってなんなんでしょうか」
そばに店員が見当たらないので厨房への暖簾をくぐって声をかけた。
「本マグロの若いやつ、七キロぐらいのをこちらではヨコワと呼ぶんです」
なんだ、なるほど。関東では「めじ」だがこちらでは「ヨコワ」になるのか。まずはそれを注文することにした。
たしかに食べ慣れているめじ(マグロ)の味だった。
ここは松江の「食酒処 かわばた」という酒場である。
わたしは訪ねた酒場について自分なりのネーミングを秘かに行う。鬼平で出てくる「『相模の』彦十」や盗賊の頭の「『妙義の』団衛門」みたいな二つ名を酒場の名前の前に付けてしまうのだ。例えばその店で妙に旨かった「みょうが」とか「貝盛り」とか「紅しょうが天」とかである。そして、それを記憶の索引にしているのだ。してみればこの店は「ヨコワ」と名付けておこう。
ふむ、石州瓦焼き・・・か。
聞けば、石州(せきしゅう)瓦とは日本三大瓦のひとつで、島根県石見地方で生産されている粘土瓦だそうだ。冷房も効いていて身体もクールダウンしたので、焼き物もいいな。島根沖産イカを頼む。
(おっ、なんとも旨そうなイカだぞ!)
ところが瓦で焼き始めるとたちまち顔色が変わってしまう。あまりの臭さに息ができずに鼻が曲がりそうだ。わかりやすく言えばクサヤ臭に近い。これはきっと「くさや液」に近い魚醤に浸けこんだな。
しかし、食べるとこれが活きのいいイカの味にパンチのある風味が加わってなんとも旨い。なにも付けなくても充分な味わいだ。
えーい、食べながらチビチビ呑む作戦は捨てて、先に焼いてしまうことに作戦変更した。
そして、そろそろ日本酒に切り替えよう。
メニューをみると地酒が三杯のむと四杯目が無料とある。まあ、酔っぱらっても眼の前が皆美館である。数歩あるけば宿の敷地だ。
それに焼酎を二、三杯呑んだので、酒は二杯くらいで充分だろう。おっと、揚げ出し豆腐も追加するか。
酒呑みは、いやわたしは意地が汚い。
二杯で止まらず三杯になり、ということは無料の四杯目まで呑みきったところで記憶が途切れて、深更、ソファでガバッと眼を覚ましたのだった。
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→「松江しんじ湖温泉(3)」の記事はこちら
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