<読んだ本 2015年7月>
茹だるような猛暑日が連綿とつながり、風のない熱帯夜で汗だくでのたうちまわる眠りの浅い日も続く。つい下界を抜けだして涼しい高原でのひと時を渇望してしまう今日この頃である。
「おっ、この万華鏡はなんとホンモノの花を使っているぞ!」
思わず声に出してしまった。
先日、東北の宿のロビー階でみつけた万華鏡は、小さな丸い水盤に渦を巻く水を張って、千切った本物の花を数個浮かべて回転させ、上から覗きこむ仕組みであった。
この宿についての記事は来月中旬くらい以降に発信する予定である。
崎陽軒の季節弁当シリーズだが、「冬」、「春」に続いて「初夏」があったので、てっきり真夏の弁当発売はないと思っていたら「おべんとう夏」が販売された。ひょっとしてかなりな固定客を掴んだのかもしれない。(オマエも掴まれたのだろうが!)
ご飯の上にはちりめんじゃこと青菜の炒り煮、シウマイ、玉子焼き、鯵の胡麻醤油焼き、こんにゃく煮、枝豆入りがんもどき煮、くきわかめと寒天と蒲鉾ととびこの酢の物、とうもろこしの寄せ揚げ、煮物、茄子の漬物、夏蜜柑風味のわらび餅。
やはり、ご飯の量が野郎には足りない。そこで、次の日に真打であるシウマイ弁当を買って食べた。
やっぱり満足。
さてと、7月に読んだ本ですが、今月も情なや~のたった5冊、累積で43冊でした。
1. ◎花鳥の夢 山本兼一 文春文庫
2.○光圀 古着屋総兵衛初傳 佐伯泰英 新潮文庫
3. ○田園発 港行き自転車 (上) 宮本輝 集英社
4. ◎田園発 港行き自転車 (下) 宮本輝 集英社
5. ○闇の天使 ジャック・ヒギンズ 早川書房
久しぶりの「◎」印の作品が今月は二つあった。
「花鳥の夢」。
内裏から屏風の注文を受けた狩野永徳は、二十四考図、唐の皇帝たちを描いた帝鑑図、山水図の三双の屏風絵を仕上げた。画室に広げ、父の松栄に見せることにした。弟子たちも同席している。弟子のなかには狩野派を凌駕するような、類まれな天賦の才を持つ長谷川もいる。永徳は長谷川に自分の屏風絵の出来について意見を訊く。
『「なにを申しても怒りはせぬゆえ、忌憚のないところを聞かせてくれ。わしの勉強のためだ」
肩を叩くと、長谷川が顔を上げた。
まだ口を開かない。
「さあ、みなの勉強にもなることだ」
明るい声で言って、もう一度、肩を叩いた。
「承知いたしました」
「うむ、どこが悪い」
「いえ、悪いなどということはございませんが、この絵では、画面のすべてが緊密に埋め尽くされ、
岩山の突兀、湖水の浩然の広がりを押しつけられている気がいたします」
「押しつけられている・・・」
「失礼いたしました」
「いや、かまわぬ。つづけよ。そなたならどう描くか」
永徳は、できるだけ穏やかに言った。
「わたくしなら、端にある余白を、むしろ真ん中にもってまいります。その方が、観ている者が、
こころを自在に遊ばせることができるやに存じます」
聞いていて、永徳は苛立った。
「さらに全体をもうすこし淡い筆致で仕上げたほうが、悠久の時を表現できるかと・・・」
心の底の蓋がはずれ、激昂が噴き出した。
「黙れっ」
「はっ・・・」
永徳に向けた長谷川の顔が、侮蔑をふくんでいる気がした。
「黙れと言うておる」
「・・・申し訳ございません」
「なんだ、その勝手放題な言い種は」
「忌憚なく話せとの仰せでしたゆえ、思ったままに申し上げました」
「ふん、田舎の染物屋に、狩野の絵をけなされて黙っておれるか。お前は破門だ。いますぐ出て行け」
言っていることが理不尽なのは、分かっていた。しかし、自分で自分を止めることができなかった。』
長い引用となったが、ここら辺が面白かった。
田舎の染物屋と狩野永徳に罵られた弟子の長谷川だが、のちに狩野派の棟梁「永徳」の宿命のライバルとなる絵師「長谷川等伯」である。
もうひとつは宮本輝の「田園発 港行き自転車」だ。
ひとつ目でたっぷり書いてしまったので、こちらは筆者の後書きを抜粋して書き抜いておく。
『わたしは螺旋というかたちにも強く惹かれます。多くのもののなかに螺旋状の仕組みがあるのは
自然科学において解明されつつありますが、それが人間のつながりにおいても、あり得ないような出会いや
驚愕するような偶然をもたらすことに途轍もない神秘性を感じるのです。』
この後書きが、読み終わってみるとこの長編小説をよく現わしている。上巻で描かれた複数のそれぞれの主人公たちが、下巻で見事にひとつにまとめ上げている。
→「読んだ本 2015年6月」の記事はこちら
茹だるような猛暑日が連綿とつながり、風のない熱帯夜で汗だくでのたうちまわる眠りの浅い日も続く。つい下界を抜けだして涼しい高原でのひと時を渇望してしまう今日この頃である。
「おっ、この万華鏡はなんとホンモノの花を使っているぞ!」
思わず声に出してしまった。
先日、東北の宿のロビー階でみつけた万華鏡は、小さな丸い水盤に渦を巻く水を張って、千切った本物の花を数個浮かべて回転させ、上から覗きこむ仕組みであった。
この宿についての記事は来月中旬くらい以降に発信する予定である。
崎陽軒の季節弁当シリーズだが、「冬」、「春」に続いて「初夏」があったので、てっきり真夏の弁当発売はないと思っていたら「おべんとう夏」が販売された。ひょっとしてかなりな固定客を掴んだのかもしれない。(オマエも掴まれたのだろうが!)
ご飯の上にはちりめんじゃこと青菜の炒り煮、シウマイ、玉子焼き、鯵の胡麻醤油焼き、こんにゃく煮、枝豆入りがんもどき煮、くきわかめと寒天と蒲鉾ととびこの酢の物、とうもろこしの寄せ揚げ、煮物、茄子の漬物、夏蜜柑風味のわらび餅。
やはり、ご飯の量が野郎には足りない。そこで、次の日に真打であるシウマイ弁当を買って食べた。
やっぱり満足。
さてと、7月に読んだ本ですが、今月も情なや~のたった5冊、累積で43冊でした。
1. ◎花鳥の夢 山本兼一 文春文庫
2.○光圀 古着屋総兵衛初傳 佐伯泰英 新潮文庫
3. ○田園発 港行き自転車 (上) 宮本輝 集英社
4. ◎田園発 港行き自転車 (下) 宮本輝 集英社
5. ○闇の天使 ジャック・ヒギンズ 早川書房
久しぶりの「◎」印の作品が今月は二つあった。
「花鳥の夢」。
内裏から屏風の注文を受けた狩野永徳は、二十四考図、唐の皇帝たちを描いた帝鑑図、山水図の三双の屏風絵を仕上げた。画室に広げ、父の松栄に見せることにした。弟子たちも同席している。弟子のなかには狩野派を凌駕するような、類まれな天賦の才を持つ長谷川もいる。永徳は長谷川に自分の屏風絵の出来について意見を訊く。
『「なにを申しても怒りはせぬゆえ、忌憚のないところを聞かせてくれ。わしの勉強のためだ」
肩を叩くと、長谷川が顔を上げた。
まだ口を開かない。
「さあ、みなの勉強にもなることだ」
明るい声で言って、もう一度、肩を叩いた。
「承知いたしました」
「うむ、どこが悪い」
「いえ、悪いなどということはございませんが、この絵では、画面のすべてが緊密に埋め尽くされ、
岩山の突兀、湖水の浩然の広がりを押しつけられている気がいたします」
「押しつけられている・・・」
「失礼いたしました」
「いや、かまわぬ。つづけよ。そなたならどう描くか」
永徳は、できるだけ穏やかに言った。
「わたくしなら、端にある余白を、むしろ真ん中にもってまいります。その方が、観ている者が、
こころを自在に遊ばせることができるやに存じます」
聞いていて、永徳は苛立った。
「さらに全体をもうすこし淡い筆致で仕上げたほうが、悠久の時を表現できるかと・・・」
心の底の蓋がはずれ、激昂が噴き出した。
「黙れっ」
「はっ・・・」
永徳に向けた長谷川の顔が、侮蔑をふくんでいる気がした。
「黙れと言うておる」
「・・・申し訳ございません」
「なんだ、その勝手放題な言い種は」
「忌憚なく話せとの仰せでしたゆえ、思ったままに申し上げました」
「ふん、田舎の染物屋に、狩野の絵をけなされて黙っておれるか。お前は破門だ。いますぐ出て行け」
言っていることが理不尽なのは、分かっていた。しかし、自分で自分を止めることができなかった。』
長い引用となったが、ここら辺が面白かった。
田舎の染物屋と狩野永徳に罵られた弟子の長谷川だが、のちに狩野派の棟梁「永徳」の宿命のライバルとなる絵師「長谷川等伯」である。
もうひとつは宮本輝の「田園発 港行き自転車」だ。
ひとつ目でたっぷり書いてしまったので、こちらは筆者の後書きを抜粋して書き抜いておく。
『わたしは螺旋というかたちにも強く惹かれます。多くのもののなかに螺旋状の仕組みがあるのは
自然科学において解明されつつありますが、それが人間のつながりにおいても、あり得ないような出会いや
驚愕するような偶然をもたらすことに途轍もない神秘性を感じるのです。』
この後書きが、読み終わってみるとこの長編小説をよく現わしている。上巻で描かれた複数のそれぞれの主人公たちが、下巻で見事にひとつにまとめ上げている。
→「読んだ本 2015年6月」の記事はこちら
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