<時には海路で。(2)高松~小豆島~岡山>
天草フェリー以来になるか・・・。
旅での移動手段が船というのは、わたしの場合は苦手なこともあるので心に残る。たとえ宮島とか桜島に渡るような近距離でも。旅は非日常を味わう一面があるからだ。
サンポート高松を定刻の7時20分に出て、小豆島の土庄(とのしょう)港に順調にむかっている。所要時間はほぼ1時間、乗車料金は700円と、ほどよい時間で手ごろな値段といえる。
海面は機嫌良さそうな漣(さざなみ)程度、うねりもなく穏やかそのもの。快適この上ない。
瀬戸内海の面積は九州の約四分の一、四国の半分程度である。
白砂青松、多島美で景勝の地の瀬戸内海には、古くから島の数は三千あるといわれるが、名称の付いた島は八百余だそうだ。
屋島のてっぺんから残念ながら俯瞰できなかったが、間近でみる島にぶっとい煙突やらコンクリート建造物などの無粋な人工物も見当たらず、なかなかいい風景だ。
旅行者のほとんどいないガラガラの船内を前に移動して、前方に設置された喫煙コーナーに向かう。新造船なのに、喫煙者を忘れないでいてくれたのがありがたい。
時間からいくと前方が小豆島のようだ。土庄港の湾内に滑り込むように静かに入っていく。
小豆島といえば、酒のツマミ“オリーブの浅漬け”に二、三年凝ったことがあるくらいである。交通会館にある香川の物産館で「新漬オリーブ」はたしか700円くらいだった。秋の味覚で、9月中旬ころ収穫した手摘みのオリーブを選果して渋抜き、塩に漬け込み、年に一度10月中旬頃に発売されるのが難である。
下船して“土庄港観光センター”でとりあえずトイレを拝借して、施設内をぶらついていると荷物預かり所があった。まずは身軽になるか。
「この荷物、預かってほしいんですけど」
「あ、その大きさなら外のコインロッカーのほうが安くすみますよ」
まるで商売気のない親切さに驚き、頭が下がる。
「あのォ、ここらへんでレンタルバイクを借りられますか」
厚かましいが訊いてみると、「歩いて、ちょっと遠いんですけどね」とカウンターから地図を持ってきて丸印を付けて渡してくれる。
乗り継ぎ11時台にするので、次の新岡山へのフェリーまで、持ち時間は3時間ある。潮の満ち引き次第のエンジェルロードも独りじゃ味気ないし、二十四の瞳映画村もそれほどの興味がない。オリーブ公園をぶらついてから“なかぶ庵の半生そうめん”を食べるならちょうどいい時間だろうと甘く考えていたのだった。すべて願ったり叶ったりの、予定通りの旅とは(人生もだが)いかんのだ。
一時間半後、ふくれっ面でがっくり肩を落としたわたしは軽食コーナーにいた。
港から25分歩いて見つけた、地図に印をつけてくれた「石井サイクル」は休業中であり、もう一軒、30分ほどかけて探しあてたバイクもやっているというレンタカー会社では、窓口で1時間なら貸せるが2時間なら一日分の料金になるといわれ、どうしてだふざけるなと腹を立てているうちに事実上タイムアップしてしまったのだ。
軽食コーナーのメニューに“さぬきうどん”をみつけ、そうかここはまだ香川県なんだと思い知る。
「オニイサン、そうめんできたわよ!」
厨房から声がかかり、返事代わりに手をあげ、カウンターからオリーブそうめんの載った盆を卓に運ぶ。
(あーあ、半生そうめんがオリーブそうめんになってしまった!)
氷が浮いていないが、わたし好みのキンキンにしっかり冷えているそうめんで、すこぶる旨い。半生そうめんじゃないのが残念だけど、これはこれで美味しかった。単純に、素早く、機嫌が直ってしまう。
新岡山に向かうフェリーは古めのちょい小さめで、喫煙所もみつからなかった。
周りの景色にもやがて工場だの煙突だのと人工物が増えていく。都市が近くなり、海路も終わりが近づいている。
小豆島から新岡山港までの所要時間は1時間10分、料金が¥1,090円。それに港から岡山駅までのバス代500円だが、セット運賃だと¥1,400円とお得である。海路で高松から岡山駅までの合計は2,100円だ。ちなみに、鉄路のほうの快速マリーンライナーの運賃は、1,550円である。時間に余裕があればワンコインほどで海路を選べるのだ。
旅の移動手段だが、得意中の得意は車と鉄道で、大の苦手が飛行機、中の苦手が船とバス、それにロープウェイと続く。つまり今日は「中の苦手」克服の練習みたいなものだ。
「岡山駅まで、バスでどのくらいですか?」
大間の港を思いだす寂しい新岡山港で、訊いてみた。
「三、四十分くらいですね」
30分か、40分か、いったいどっちなんだよと毒吐きたくなる。バス嫌いには、その10分差が大いに気になるのだ。
思わず呟いてしまう。
「海路・プラクティスの次は、バス・プラクティスかよ!」
注)あとで調べたら、石井サイクルはコロナ禍の影響を受け、
レンタサイクル、レンタバイクの取り扱いを終了していました
→「時には海路で。(1)高松~小豆島~岡山」の記事はこちら
→「天草フェリー(1)」の記事はこちら
→「天草フェリー(2)」の記事はこちら
天草フェリー以来になるか・・・。
旅での移動手段が船というのは、わたしの場合は苦手なこともあるので心に残る。たとえ宮島とか桜島に渡るような近距離でも。旅は非日常を味わう一面があるからだ。
サンポート高松を定刻の7時20分に出て、小豆島の土庄(とのしょう)港に順調にむかっている。所要時間はほぼ1時間、乗車料金は700円と、ほどよい時間で手ごろな値段といえる。
海面は機嫌良さそうな漣(さざなみ)程度、うねりもなく穏やかそのもの。快適この上ない。
瀬戸内海の面積は九州の約四分の一、四国の半分程度である。
白砂青松、多島美で景勝の地の瀬戸内海には、古くから島の数は三千あるといわれるが、名称の付いた島は八百余だそうだ。
屋島のてっぺんから残念ながら俯瞰できなかったが、間近でみる島にぶっとい煙突やらコンクリート建造物などの無粋な人工物も見当たらず、なかなかいい風景だ。
旅行者のほとんどいないガラガラの船内を前に移動して、前方に設置された喫煙コーナーに向かう。新造船なのに、喫煙者を忘れないでいてくれたのがありがたい。
時間からいくと前方が小豆島のようだ。土庄港の湾内に滑り込むように静かに入っていく。
小豆島といえば、酒のツマミ“オリーブの浅漬け”に二、三年凝ったことがあるくらいである。交通会館にある香川の物産館で「新漬オリーブ」はたしか700円くらいだった。秋の味覚で、9月中旬ころ収穫した手摘みのオリーブを選果して渋抜き、塩に漬け込み、年に一度10月中旬頃に発売されるのが難である。
下船して“土庄港観光センター”でとりあえずトイレを拝借して、施設内をぶらついていると荷物預かり所があった。まずは身軽になるか。
「この荷物、預かってほしいんですけど」
「あ、その大きさなら外のコインロッカーのほうが安くすみますよ」
まるで商売気のない親切さに驚き、頭が下がる。
「あのォ、ここらへんでレンタルバイクを借りられますか」
厚かましいが訊いてみると、「歩いて、ちょっと遠いんですけどね」とカウンターから地図を持ってきて丸印を付けて渡してくれる。
乗り継ぎ11時台にするので、次の新岡山へのフェリーまで、持ち時間は3時間ある。潮の満ち引き次第のエンジェルロードも独りじゃ味気ないし、二十四の瞳映画村もそれほどの興味がない。オリーブ公園をぶらついてから“なかぶ庵の半生そうめん”を食べるならちょうどいい時間だろうと甘く考えていたのだった。すべて願ったり叶ったりの、予定通りの旅とは(人生もだが)いかんのだ。
一時間半後、ふくれっ面でがっくり肩を落としたわたしは軽食コーナーにいた。
港から25分歩いて見つけた、地図に印をつけてくれた「石井サイクル」は休業中であり、もう一軒、30分ほどかけて探しあてたバイクもやっているというレンタカー会社では、窓口で1時間なら貸せるが2時間なら一日分の料金になるといわれ、どうしてだふざけるなと腹を立てているうちに事実上タイムアップしてしまったのだ。
軽食コーナーのメニューに“さぬきうどん”をみつけ、そうかここはまだ香川県なんだと思い知る。
「オニイサン、そうめんできたわよ!」
厨房から声がかかり、返事代わりに手をあげ、カウンターからオリーブそうめんの載った盆を卓に運ぶ。
(あーあ、半生そうめんがオリーブそうめんになってしまった!)
氷が浮いていないが、わたし好みのキンキンにしっかり冷えているそうめんで、すこぶる旨い。半生そうめんじゃないのが残念だけど、これはこれで美味しかった。単純に、素早く、機嫌が直ってしまう。
新岡山に向かうフェリーは古めのちょい小さめで、喫煙所もみつからなかった。
周りの景色にもやがて工場だの煙突だのと人工物が増えていく。都市が近くなり、海路も終わりが近づいている。
小豆島から新岡山港までの所要時間は1時間10分、料金が¥1,090円。それに港から岡山駅までのバス代500円だが、セット運賃だと¥1,400円とお得である。海路で高松から岡山駅までの合計は2,100円だ。ちなみに、鉄路のほうの快速マリーンライナーの運賃は、1,550円である。時間に余裕があればワンコインほどで海路を選べるのだ。
旅の移動手段だが、得意中の得意は車と鉄道で、大の苦手が飛行機、中の苦手が船とバス、それにロープウェイと続く。つまり今日は「中の苦手」克服の練習みたいなものだ。
「岡山駅まで、バスでどのくらいですか?」
大間の港を思いだす寂しい新岡山港で、訊いてみた。
「三、四十分くらいですね」
30分か、40分か、いったいどっちなんだよと毒吐きたくなる。バス嫌いには、その10分差が大いに気になるのだ。
思わず呟いてしまう。
「海路・プラクティスの次は、バス・プラクティスかよ!」
注)あとで調べたら、石井サイクルはコロナ禍の影響を受け、
レンタサイクル、レンタバイクの取り扱いを終了していました
→「時には海路で。(1)高松~小豆島~岡山」の記事はこちら
→「天草フェリー(1)」の記事はこちら
→「天草フェリー(2)」の記事はこちら
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます