<読んだ本 2021年5月と6月>
夏場にだが、一度か二度くらいところてんを無性に口にしたくなる。
「飲食」は、どちらかというと「飲」のほうが好きなので、飲みだすと、とたんに「食」が細くなる。しかも少量で美味しいものしか食べない猫喰いで、口に合わない料理だと箸がピタリと止まってしまうとんでもない“バチ当たり”で、てんでよそ行きにならぬ。
そんなバチ当たりのわたしだが、接待の急な人数合わせで「食べるほうは適当でいいし、飲んでいるだけでいいから」としつこく口説かれ急遽参加したことがあった。
(盛田屋のHPより)
名のある割烹料理店で和食のコースの途中に、まさに適量のところてんを“箸休め”で供され、「清涼感たっぷりのオツなモノを出すなあ」と、卓を囲むメンバーほとんどが飲兵衛だったこともあり、関西生まれの独りを除いた一同しきりに感心したことがある。関東以北と中国以西では酢と辛子だが、彼は関西生まれなので甘い黒蜜でしかところてんを食したことがなかったと言い訳したのだった。その日のコース料理はまったく覚えてないのだが、ところてんだけは鮮明に思い出せる。
ところてん・・・か。まさか西伊豆の盛田屋とか神田明神の天野屋とかの本格的じゃなくていい、近くに提供してくれる店はなかったか。
乱雑した記憶の棚をぐるぐる引っ掻き廻して、ついに見つけた。
久しぶりに訪問した埼玉屋も、さすがにコロナ禍の対応として換気に気を使い、手指の消毒があり、卓にはアクリル板が並んでいた。
「あの壁の辺に『ところてん』のメニューがなかったっけ?」
席に落ち着き、短冊に書かれたメニューが貼られている壁の一角を指さした。
壁をみて、さもいま気がついたように目を瞠り、主人はいった。「あー、ありますよ」。
「じゃあ、それとポテトサラダをください」
思い切り<しょぼいところてん>が運ばれてきたが、この店の値段はたぶん半額以下の200円から300円くらいなので文句はいわない。
“ところてん”の歴史は奈良時代といわれ、平安京のころの市では「こころぶと(心太=天草の俗称)」の名で売られていたという。
清滝の 水くませてや ところてん
芭蕉が、京都奥嵯峨にある水の里“清滝”で味わったところてんの涼を詠んだ句といわれる。
最後はそうめんかやきそばで締めようかなと思っていたが、カメヤに寄ってハムトーストという手もあったなと思いつき、水割りのお代りと目玉焼きを頼むのだった。
さて、5月と6月に読んだ本ですが、両月でなんとかの10冊、年間累計で28冊。
1. ○検事の信義 柚月裕子 KADOKAWA
2. △特命指揮官 警視庁捜査二課・郷間彩香 梶永正史 宝島社文庫
3. ○光秀の定理 垣根涼介 角川文庫
4. ○京都四条 月岡サヨの小鍋茶屋 柏井壽 講談社
5. ○汚名 上 マイクル・コナリー 講談社文庫
6. ◎汚名 下 マイクル・コナリー 講談社文庫
7. ◎旅猫リポート 有川浩 講談社文庫
8. ○図書館戦争 有川浩 角川文庫
9. ○素晴らしき世界 上 マイクル・コナリー 講談社文庫
10. ◎素晴らしき世界 下 マイクル・コナリー 講談社文庫
ボッシュ・シリーズ「汚名」は、珍しくボッシュが犯罪組織に潜入捜査をする展開で、スリル満点で下巻に突入、ハラハラさせられたが面白かった。
「素晴らしき世界」のほうは、ボッシュとバラードが協力して未解決時間に取り組む、いわば準ボッシュ・シリーズ。こちらもボッシュが拉致監禁されてちょっとハラハラさせる。
猫好きなので、つい読んでしまった有川浩「旅猫リポート」。
主人公サトルが猫のナナを連れ銀色ワゴンで旅に出る。小説の冒頭部分は猫好きをいかにも惹きつける。
『吾輩は猫である。名前はまだ無い。――と仰ったえらい猫がこの国にはいるそうだ。
その猫がどれほどえらかったのか知らないが、僕は名前があるという一点においてのみ、
そのえらい猫に勝っている。
もっとも、その名前が気に入っているかどうかは別の話である。何故なら僕につけられた名前は
僕の性別に合致していないこと甚だしいからだ。』
そして、末尾部分の
『僕らは旅の思い出を数えながら、次の旅へと向かうんだ。
先に行ったひとを思いながら、後から来るひとを思いながら。
そうして僕らはいつかまた、愛しいすべてのひとびとと、地平線の向こうで出会うだろう。』
猫のナナとサトルが銀色のワゴンで旅をする話なのだが、後半、北海道に上陸したあたりから、猫好きの涙腺を強烈に刺激するストーリーにじわじわとなっていく。
とっくに映画化されているとあとで聞き、いずれテレビで観られるのを楽しみにしておこうと心に刻む。
→「読んだ本 2021年3月と4月」の記事はこちら
→「西伊豆、小鯵寿司と心太」の記事はこちら
→「湯島天神~神田明神~柳森神社(2)」の記事はこちら
→「横浜三吉橋、埼玉屋食堂」の記事はこちら
→「横濱橋界隈、昔ながらの喫茶カメヤ」の記事はこちら
夏場にだが、一度か二度くらいところてんを無性に口にしたくなる。
「飲食」は、どちらかというと「飲」のほうが好きなので、飲みだすと、とたんに「食」が細くなる。しかも少量で美味しいものしか食べない猫喰いで、口に合わない料理だと箸がピタリと止まってしまうとんでもない“バチ当たり”で、てんでよそ行きにならぬ。
そんなバチ当たりのわたしだが、接待の急な人数合わせで「食べるほうは適当でいいし、飲んでいるだけでいいから」としつこく口説かれ急遽参加したことがあった。
(盛田屋のHPより)
名のある割烹料理店で和食のコースの途中に、まさに適量のところてんを“箸休め”で供され、「清涼感たっぷりのオツなモノを出すなあ」と、卓を囲むメンバーほとんどが飲兵衛だったこともあり、関西生まれの独りを除いた一同しきりに感心したことがある。関東以北と中国以西では酢と辛子だが、彼は関西生まれなので甘い黒蜜でしかところてんを食したことがなかったと言い訳したのだった。その日のコース料理はまったく覚えてないのだが、ところてんだけは鮮明に思い出せる。
ところてん・・・か。まさか西伊豆の盛田屋とか神田明神の天野屋とかの本格的じゃなくていい、近くに提供してくれる店はなかったか。
乱雑した記憶の棚をぐるぐる引っ掻き廻して、ついに見つけた。
久しぶりに訪問した埼玉屋も、さすがにコロナ禍の対応として換気に気を使い、手指の消毒があり、卓にはアクリル板が並んでいた。
「あの壁の辺に『ところてん』のメニューがなかったっけ?」
席に落ち着き、短冊に書かれたメニューが貼られている壁の一角を指さした。
壁をみて、さもいま気がついたように目を瞠り、主人はいった。「あー、ありますよ」。
「じゃあ、それとポテトサラダをください」
思い切り<しょぼいところてん>が運ばれてきたが、この店の値段はたぶん半額以下の200円から300円くらいなので文句はいわない。
“ところてん”の歴史は奈良時代といわれ、平安京のころの市では「こころぶと(心太=天草の俗称)」の名で売られていたという。
清滝の 水くませてや ところてん
芭蕉が、京都奥嵯峨にある水の里“清滝”で味わったところてんの涼を詠んだ句といわれる。
最後はそうめんかやきそばで締めようかなと思っていたが、カメヤに寄ってハムトーストという手もあったなと思いつき、水割りのお代りと目玉焼きを頼むのだった。
さて、5月と6月に読んだ本ですが、両月でなんとかの10冊、年間累計で28冊。
1. ○検事の信義 柚月裕子 KADOKAWA
2. △特命指揮官 警視庁捜査二課・郷間彩香 梶永正史 宝島社文庫
3. ○光秀の定理 垣根涼介 角川文庫
4. ○京都四条 月岡サヨの小鍋茶屋 柏井壽 講談社
5. ○汚名 上 マイクル・コナリー 講談社文庫
6. ◎汚名 下 マイクル・コナリー 講談社文庫
7. ◎旅猫リポート 有川浩 講談社文庫
8. ○図書館戦争 有川浩 角川文庫
9. ○素晴らしき世界 上 マイクル・コナリー 講談社文庫
10. ◎素晴らしき世界 下 マイクル・コナリー 講談社文庫
ボッシュ・シリーズ「汚名」は、珍しくボッシュが犯罪組織に潜入捜査をする展開で、スリル満点で下巻に突入、ハラハラさせられたが面白かった。
「素晴らしき世界」のほうは、ボッシュとバラードが協力して未解決時間に取り組む、いわば準ボッシュ・シリーズ。こちらもボッシュが拉致監禁されてちょっとハラハラさせる。
猫好きなので、つい読んでしまった有川浩「旅猫リポート」。
主人公サトルが猫のナナを連れ銀色ワゴンで旅に出る。小説の冒頭部分は猫好きをいかにも惹きつける。
『吾輩は猫である。名前はまだ無い。――と仰ったえらい猫がこの国にはいるそうだ。
その猫がどれほどえらかったのか知らないが、僕は名前があるという一点においてのみ、
そのえらい猫に勝っている。
もっとも、その名前が気に入っているかどうかは別の話である。何故なら僕につけられた名前は
僕の性別に合致していないこと甚だしいからだ。』
そして、末尾部分の
『僕らは旅の思い出を数えながら、次の旅へと向かうんだ。
先に行ったひとを思いながら、後から来るひとを思いながら。
そうして僕らはいつかまた、愛しいすべてのひとびとと、地平線の向こうで出会うだろう。』
猫のナナとサトルが銀色のワゴンで旅をする話なのだが、後半、北海道に上陸したあたりから、猫好きの涙腺を強烈に刺激するストーリーにじわじわとなっていく。
とっくに映画化されているとあとで聞き、いずれテレビで観られるのを楽しみにしておこうと心に刻む。
→「読んだ本 2021年3月と4月」の記事はこちら
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