ミンソクは小樽雪あかりの路の韓国ボランティア団の一人として20年前に初めて小樽に来ました。
以来ほぼ毎年、2月のイベント開催に合わせて小樽にやって来る「雪あかりレジェンド」です。
彼の本業はシステムエンジニアで、あらゆるプログラミング言語を操り、企業のシステム設計やネットワーク構築などに携わっています。
優秀な彼は、韓国でも引く手あまたですが、どの企業にも属さない一匹狼です。
どうしてと尋ねると、
「毎年2月は小樽に来ると決めているから」
と笑うミンソク。
フリーランスで企業からの仕事を請け負い、全ての業務を1月までに終えて、毎年2月はまるまる小樽入りするのが彼のルーティーンなのです。
そんな彼から昨年12月に連絡がありました。
2月にどうしても抜けられない仕事が入ってしまい、今回小樽には行けないと言うのです。
ミンソクが来ないのはさびしいなと思っていると、雪あかり開催前の2月8日、なんと彼はひょっこりと顔を出しました。
「すぐ帰らなくてはいけなのですが、お正月休みを利用して来ちゃいました」
5泊6日で小樽に来たというのです。
(ちなみに彼の航空券やホテル代はすべて自費です。)
そして、到着したその日から、彼はすぐに雪あかりの作業に取り組みました。
彼が担当する会場は中央橋。
精巧に作られた彼の雪のオブジェはひと際目を引き、来場者からも大好評です。
ふくろうの形をしたオブジェはお腹のところに細かな穴が開けてあり、ろうそくの光が引き立つように工夫されています。
黙々と真面目に作業を続けるミンソク。
観光客が写真を撮っていると、手を止めて走って飛んでいき
「よかったら写真をお撮りしましょうか」
と日本語で話しかけます。
おもてなしの心を持つ「雪あかりレジェンド」からは、多くの学びがあります。
中央橋に毎日通い続けた彼は、帰国する前日に言いました。
「自分は今年、雪あかり最終日まで小樽にいることができません。そのかわり、ふくろうのストックをたくさん作っていきます。明日から飾ってください」
会場の影で丹精込めて雪でふくろうを作るミンソクの姿がありました。
ミンソクが帰国した日、小樽では最高気温が9.4℃とこの時期異例の暖気となりました。
会場脇に置いてあったふくろうたちは、すべて跡形もなく融けてしまいました。
それを見たミンソクと一緒に作業をしていたボランティアさんたちは、数日間の彼の作業が無駄になってしまったと落胆し、一様に沈んだ悲しい気持ちになりました。
言葉を失っている中、誰かがポツリと言いました。
「ふくろうは韓国に飛んでいったんだよ」
あーそうか、みんな静かに頷きました。
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