夜噺骨董談義

収集品、自分で作ったもの、見せていただいた品々などを題材に感想談など

誂? 寺崎廣業 美人画 5点

2021-06-02 00:01:00 | 掛け軸
当方の寺崎廣業の作品の蒐集は一区切りの段階で、表具の痛んでいる作品の中からお気に入りの作品だけを選んで保存のための処置にし始めています。修理の完了した作品は本ブログにてその都度作品を紹介しており、本日は2作品が処置が完了しましたので投稿します。あと3点は今後の修理検討中の作品です。

まずは本ブログで「お気に入りの作品」として投稿されている下記の作品です。主な処置は「染み抜き、締め直し改装、太巻き保存、箱の仕立て」の4点です。費用は8万円ほどかかりました。

手前の葡萄文辰砂の大皿の作品は友人であった平野庫太郎氏の遺作です。

*ちなみに平野庫太郎氏が亡くなる一年ほど前に平野家ゆかりの作品であろう「陶公図」という寺崎廣業の作品を一点、当方で平野庫太郎氏から預かり受けています。

1.桐下唐美人図 寺崎廣業筆 大正4年(1915年)頃
  絹本水着色軸装 軸先水晶 鳥谷播山鑑定箱
  全体サイズ:縦2200*横655 画サイズ:縦1290*横510



前回の投稿と比して写真では解りにくいでしょうが、折れやシミが無くなり、実にすっきりとしたいい作品となりました。

 

家内や義母も「お~」という感想です。それほど出来の良い作品ですが、写真では仕上がり具合が解りにくいでしょうね。



表具は既存のままの「締め直し」です。



寺崎廣業の作品でこれほどの作品はなかなかないかもしれませんね。



明治末から大正期にかけての作と推定しています。



「締め直し」した理由は既存の表具を気に入っていたからで、軸先まで既存のままです。



細かい部分まで念入りに描かれている作品ですね。



絵の具の剥落が少しでも進まないように太巻きの保管箱にしています。



共箱ではない作品ですが、門下生であった鳥谷幡山の鑑定箱書がありましたので、新たな箱に組み込んでおきました。このような細工の保管箱はよく見られます。費用は2万円ほどかかります。



2点目の作品は以前に改装したのですが、一文字部分に剥離が生じてきたのと保存箱が粗末であったので一文字の修復と太巻きの誂えをしています。

2.楚蓮香(仮題) 寺崎廣業筆 明治40年(1907年)頃
  絹本水墨着色軸装 軸先塗 極箱入
  全体サイズ:横520*縦2008 画サイズ:横389*縦1212



一般的に色彩画の掛け軸はできれば太巻きにする方がいいでしょう。



楚蓮香(それんこう)は、中国の唐時代の美女で、外出するとその香りを慕って胡蝶がついてきたという伝説があります。この画題は応挙 の「楚蓮香之図」、上村松園による大正13年(1924)頃の作(京都国立近代美術館蔵)があります。本作品は蝶が描かれていないので楚蓮香を題材にした作品でない可能性があり、あくまでも仮題としていますのでご了解ください。

*楚蓮香を題材にした作品なら、上村松園による大正13年(1924)頃の作(京都国立近代美術館蔵)より20年近く前に寺崎廣業が描いていたというのも興味深いです。



掛け軸はその扱い方、掛け方、保存方法に精通している方が所持するものだと思います。現在は掛け軸の扱い方を心得ている人は少ないでしょうね。ただ広げて巻けばいいというものではありませんね。



私は掛け軸の扱い方は母から教えられました。特に飾る高さを教えられたのを印象的に覚えています。低く飾りすぎるのはみっともないと・・。あくまでも立った姿勢での目線を重視すると言われたように覚えています。



この作品も共箱ではありませんが、所蔵印のような書付が巻止にありましたので、箱裏に貼り付けて遺しておきました。



3点目の作品は改装していませんが、絵の具の剥落が見られますので、こちらも太巻きの保管箱を誂えています。

3.花がたみ 寺崎廣業筆 二本廣業時代 明治40年(1907年)頃
  絹本着色軸装 軸先鹿骨 合箱入
  全体サイズ:縦1710*横575 画サイズ:縦960*横418



ご存知のように同題の作品はこの後に描いた上村松園の代表作がありますね。「花がたみ」は上村松園の1915年の作品で、現在は松伯美術館蔵となっています。「花筐(はながたみ)」とは世阿弥作とされる能の一曲で、成立は室町時代にさかのぼります。舞台は春の越前国の味真野というところのようです。



物語は「皇位を継ぐため都へ向かった大迹皇子は、使者を最愛の女性・照日の前の元に遣わします。皇子からの文と愛用の花筐を届けられた照日の前は悲嘆にくれ、それらを抱いて故郷へ帰ります。やがて皇位を継いだ大迹皇子は紅葉狩りに向かい、皇子を慕うあまり都へとやってきた照日の前に出会います。しかし帝の行列を汚す狂女として花筐を打ち落とされてしまいます。花筐を見た帝はそれがかつて自ら与えたもので狂女が照日の前であると気づき、再び照日の前を召し出して都へと帰っていく。」という物語です。



なお松園は「高貴な女性の狂気」というイメージを求めて、精神病院を訪れて患者を観察したり、名妓や能面の写生を重ねたと言います。上村松園の「花がたみ」と寺崎廣業の「花がたみ」を比べてみるのも面白いですね。

*ただし寺崎廣業の「花がたみ」という画題の作品はこの作品以外には見当たりません。



前述のように絵の具の剥落が始まっていますので、改装はしていませんが、太巻きにして保存しています。



これらの3作品は絵の具の剥落防止のため、太巻きの保管箱となっています。



ここまでの寺崎廣業の作品は、修復がほぼ完了している作品ですが、次作以降はまだ修復が完了していない作品です。

4点目は染み抜きと太巻き保管箱をしようかと思っている作品です。真贋の見極めを含めて費用対効果のある作品かを見極めているところです。

4.月光燈影図 伝寺崎廣業筆 明治32年(1899年)頃
  水墨着色絹本軸装 軸先象牙 合箱 
  全体サイズ:横696*縦2180 画サイズ:横493*縦1270



この作品は寺崎廣業の描いた同題・同構図の有名な作品(島根県立美術館蔵)があり、そのの試作? もしくは模倣(贋作)作品の可能性があるので、改装するかどうかはず~っと思案中です。



「平家物語」において高倉帝との悲恋が語られる小督局を主題とした作品です。宮中第一の琴の名手と謳われた小督は高倉帝に寵愛され、娘である中宮徳子と帝の関係を案ずる平清盛に睨まれ嵯峨野の奥に身を隠すことになります。笛の名手である源仲国は帝に命じられてその行方を捜しますが、明月の晩に小督の奏でる琴の音を頼りにその所在をつかんだという逸話です。 

この作品に描かれているのは、仲国が吹く笛の音に、帝を想い琴に向かう小督の姿です。光線の表現に取り組み、表情を明るく照らす短檠の灯りを、わずかに青を加えた胡粉をハイライトのようにのせて表し、周囲の畳や襖にもうっすらと金泥を刷っています。庭先の萩は葉脈に色彩を加え、金泥を点じて月光の反映を表わしています。

月光は室内にも差し込んで琴の糸を照らし、燈火に照らされる部分とは金の色味を変えて描き分けています。月光と燈火を対比させた印象的な情景描写により、小督の深い思慕の情を浮かび上がらせようとした意欲作です。

*本画に比べて少し小さ目の作品であり、印章の細部の違いやちょっと雑なところが気になっていますが、全体に出来はよいものです。

**本作品は贋作の疑いがあります。



最後は下記の作品です。入手時に予算がなく、改装だけしましたが、シミがひどいので改めて染み抜きを思案中です。

5.萩ニ扇美人図 寺崎廣業筆 明治40年(1907年)頃
  絹本着色軸装 軸先木製 合箱入
  全体サイズ:縦1885*横520 画サイズ:縦1102*横398



改装はやれるときに思い切ってやらないと二度手間になりますね。ただNO1,2.3の作品(出来は寺崎廣業の作品の中でかなり良い)に比してNO4,5は出来の良さで見劣りするので改修は迷っているのが正直な思いです。



寺崎廣業の美人画はこの他にも幾つかあり本ブログにて紹介されていますがこれらは誂えの必要のない作品です。


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