夜噺骨董談義

収集品、自分で作ったもの、見せていただいた品々などを題材に感想談など

千匹鯉図 伝黒田稲皐筆 その5 天保5年頃 & 保戸野窯 「平野庫太郎氏作 辰砂葡萄文茶碗」

2019-11-27 00:01:00 | 掛け軸
陶磁器の作品において保存箱がないままに入手する作品が数多くあります。そのままでは保存するには場所をとるし、破損する恐れもあります。少しずつ大切にしたい作品は保存箱を誂える必要があります。当方では大切にしたい作品は少しずつ箱を誂えています。今回は明末赤絵(「天下一の「青絵」)の作品や金城次郎の無銘の作品らに保存箱を誂えました。



新しい作品を購入する費用の半分程度は修復や保存することに費用を充てるべきというのが当方の考えです。野放図に室内や廊下などに作品を放置するのは、蒐集する者としては失格です。

作品は「自分のお金で購入し、よく調べて勉強し、売り買いをし、また時として蒐集を休みなさい。」というのが蒐集の鉄則ですが、もうひとつ「よりよい保存に注力し、飾る工夫が必要。」ということも大切だと思います。



当方での蒐集作品では、あらかた保存箱の製作は終了してきましたが、作品亡くなった平野庫太郎氏の作品で箱のない作品にも保存箱を誂えました。工房を訪れた際に譲って頂いた作品がメインですが、急遽訪れた際に箱のないままにで頂いていいた作品が多くあります。



この辰砂の茶碗は「郷里での裏千家のお茶会を記念して配る作品」を依頼された際に作陶したもので、見本品を1対で頂いてきたものです。



葡萄文の品格ある作品です。平野庫太郎氏の作品は品格があり、隙を見せない洒落た作品が魅力ですね。

この作品に辰砂の窯変で緑がかった茶碗の作品を所望していたのですが、出来上がる前に他界してしまいました。本人も解っていてこの作品を分けてくれたのではないかと推察しています。元気なうちに頂いた最後の作品のひとつあり、思い出深い作品です。家内が水屋に置いていたのですが、この度箱を誂えました。



さて本日の作品の紹介です。本作品は無落款ですが、当方では現段階では黒田稲皐の作ではないかと推察しています。

*インターネットオークションには黒田稲皐の作品と称して多くの贋作が出品されていますので、それだけ多くの贋作が存在するということから判断には慎重を期する必要はあります。

群鯉図 伝黒田稲皐筆 その5
紙本水墨軸装 軸先骨 無落款 合箱
全体サイズ:縦1520*横970 画サイズ:縦560*横850



因幡画壇は土方稲嶺を祖として、後継の黒田稲皐をして鯉の作品を得意とする画家を数多く輩出しました。本作品は無落款により誰が描いた作品かは不明ですが、少なくても因幡画壇の絵師のよるもの、もしくはそれを模写した作品には相違ないでしょう。



変に著名な画家の落款が後で記されてない点がいいですね。とかくこのような無落款の出来の良い作品には著名な画家の落款や印章がある贋作に仕立てられてしますことがあります。



動きのある構図など鳥取博物館蔵である「千匹鯉図」に引けをとりません。



当方では筆致や構図から「黒田稲皐」が描いた作品と考察しています。



黒田稲皐は弓馬、刀槍、水練などの武芸にも長じ、落款には「弓馬余興」の印をしばしば用いたり、更に「因州臣」「因藩臣」と入った作もあり、これらは、自分はあくまで武士であり絵は余興にすぎないという稲皐の矜持を表しているのだそうです。



本作品は節句のための誰からか依頼されて描いた作品かもしれません。かなりの力作で大作ですが、上記の理由で落款を記さなかった可能性は否定できないと思います。



下記の作品は鳥取博物館蔵の「千匹鯉図」は1834年 (天保5年) に描かれた作品で、絵のサイズは縦53.0*横72.5センチと横長の作品で本作品に大きさがほぼ同等となり、驚くほど構図が近似しています。同時期に描かれた作品と推察されます。この作品は府中美術館 「リアル 最大の奇抜」(平成30年3月10日~5月6日)に出品されていましたので、ご存知の方も多いと思います。



本作品を黒田稲皐の作と推察する根拠は下記の点です。

1.上記の作品(鳥取博物館蔵の「千匹鯉図」)と構図が似ている点、

2.微妙な陰影のある鱗の描き方、
  稲皐の描く鯉の鱗はジグソーパズルをはめこんだような描き方をするのが特徴。
  稲皐の鱗は微妙な変化をしている。

「その4」より



「その5」(本作品)より



3.「千匹鯉」と題された作品に必ず描かれている一匹以上のユーモラスな正面を向いている親爺風の人面鯉? 
  これは上記の鳥取博物館蔵の「千匹鯉図」の上部にも描かれています。「その5」には2匹。「その4」には一匹描かれています。

本作品はリアルに描く鱗をもった鯉は通常は一匹しか描かない黒田稲皐の鯉の作品で、数多くの鯉の鱗を丁寧に描いています。



親爺風の人面鯉?が二匹描かれています。意図して描いたか否かは定かではありませんが、調べた3作品すべてにユニークな顔をもった鯉が描かれているの同時期に描かれた作品で、同じ試みをしていたのかもしれません。



まるラグビーのスクラムやモールにおいて下から顔を出している髭面親爺・・・・???

「その4」より  この親爺風の人面鯉は「千匹鯉」と題された多くの鯉を描いた作品にしか描かれていません?



むろん本作品は単なる因幡画壇風の鯉の絵で黒田稲皐の作風を真似たもの、もしくは模写したものというの妥当な評価なのでしょう。鯉の描き方も連続的に同じで、「その4」ほどの変化が見られない点はその指摘の根拠にもなります。

下記の写真は「その4」



落款などが無い故に廉価で購入できましたが、これほどの出来の良い作品を放置しておいてはもったいないですね。箱は素人の誂えですね。



さて表具はくたびれていますので、掛け軸として改装するのか、この際額装に変えるのか迷うところです。



全体では天地交換程度でよさそうですが、絹本自体の痛みを改装時点で直しているのですが、直しが雑ですので、改装してしまう際に額装というのもひとつの考えです。費用との関連で試行中です。

「保存と飾る工夫」と「蒐集欲」と「費用」は三者が対峙する関係にあるようです。



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