Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

響くやり場のない怒り

2020-11-05 | 
今晩はアルテオパーでブラームスだった。最初はオリジナルプログラムで、アメリカに飛ぶ前にフランクフルトで送り出す公演だった。ベルリナーフィルハーモニカーのラトル時のプログラミング部長がアルテオパーの現支配人なので、今後ともそういう機会が多いと思う。

プログラムはヴェーベルンのパッサカリア、メンデルスゾーンの交響曲一番、そしてブラームスの四番だった。ザルツブルク音楽祭のあまりティケットも安く買わなかった。9月までオリジナルプログラムの可能性を期待していたからだ。

そして、11月になっても通常配置で演奏できるかどうかが怪しかった。結果はベルリンではツアー第二プロのようにその準備は着々と出来ていた。改変プログラムになって買える一番良い席を購入した。全ては期待の反映でしかなった。

今方々で話題になっているロックダウン前のそのプログラムのアンコールとして「演奏」されたキリル・ペトレンコ指揮ジョンケージ作曲4'33''の演奏風景を観た。三楽章に別れている。ペトレンコは其々の楽章に性格付けをしていたようだ。その意味は彼の表情と身振りだけでしか計り知れない。
John Cage: 4'33'' / Berliner Philharmoniker · Kirill Petrenko


初演のピアニストの無音パフォーマンスから30秒と一番短いとされている第一楽章では、うつむき加減に両手を肘の高さに抱擁するかのように掌を前に出して、左に頭を傾け暫くして前を向いて少し右を向いて再び最初の方に首を傾けたまま悲嘆に暮れて終わる。

五月一日のヨーロッパコンサートではバーバーのアダージョで上を向いた祈るようなしぐさが話題になった。コロナ禍の怒りの神に請うようなバロック絵画の悔悟の表情とされた。今回のこれも明らかに嘆きであり、同時に受け入れる達観とした表情を見せた。逆らえない運命を受け入れるかのような抱擁の姿勢だった。

そして第二楽章の2分23秒の最も長い楽章では、前に手を翳し、今度は右方向へと首を傾けながらヴァイオリンから現在は通常配置の右のコントラバスまでを心を合わせるかのように一望した。まるで月末までの間のお別れと同時に安然秩序を希望するかのような眼差しであった。そして右を向きながら再び手を肘の高さに保持した。

最後の三楽章は1分40秒で、ペトレンコは打って変わって怒りの表情を見せた。先ずは左の方を向いて右上の開いた指から左の親指だけが開く手が何かを受けるかのようにその左手が力で震える。そして目をかっと見開き右へと視点を移していく。その眼差しは向けようのない怒りに溢れ、更に左へ戻ろうと視線を上げながら何かを探す。そして左へと向けても何も見つからない、そして途方に暮れながら、左端から更に右へと戻る。そして何もないことを確認して手を下げる。

このように怒りに満ちてそして途方に暮れた表情を嘗て見せたことが無い。ペトレンコは昔仏頂面で指揮する事も試みたようだが、最終的には出来る限り芸術的な内容を伝えるべく表情を付けることを目指した。今回の指揮には、楽曲本来の聴衆を含むその環境よりも、まさしく私たちが置かれている環境を認知して更に記録することにその指揮の全てが注がれたのだろう。

フォアアールベルクにメイルで回答した。12月への試みには触れずに、上手くいく延期日程を愉しみにしていると書いておいた。皆期待している気持ちは変わらない。しかし現実は厳しい。

皆が同じように困っている。どうしてこうなってしまうのだろうという悲嘆でしかない。それも皆が術もなく受け入れるしかない運命である。ペトレンコが特別宗教的な人物とは思わないが、ああした才人には珍しく、とても忍耐強く更にそこから何かを構築していく智慧がある。そして暖かな眼差しも忘れない。恐らくそれは彼自身がその自身の立場を誰よりも理解している人物だからだろう。だからこそそのやり場のない怒りは強烈に響いた。

Meistersinger 3. Aufzug 5. Szene 3

Verachtet mir die Meister nicht
und ehrt mir ihre Kunst!
Was ihnen hoch zum Lobe spricht,
fiel reichlich Euch zur Gunst!
Nicht Euren Ahnen, noch so wert,
nicht Eurem Wappen, Speer noch Schwert,
daß Ihr ein Dichter seid,
ein Meister Euch gefreit,
dem dankt Ihr heut’ Eu’r höchstes Glück.
Drum, denkt mit Dank Ihr d’ran zurück,
wie kann die Kunst wohl unwert sein,
die solche Preise schließet ein?
Daß uns’re Meister sie gepflegt,
grad’ recht nach ihrer Art,
nach ihrem Sinne treu gehegt,
das hat sie echt bewahrt.
Blieb sie nicht adlig wie zur Zeit,
wo Höf’ und Fürsten sie geweiht,
im Drang der schlimmen Jahr’
blieb sie doch deutsch und wahr;
und wär’ sie anders nicht geglückt,
als wie, wo alles drängt und drückt,
Ihr seht, wie hoch sie blieb in Ehr’!
Was wollt Ihr von den Meistern mehr?
Habt acht! Uns dräuen üble Streich’!
Zerfällt erst deutsches Volk und Reich,
in falscher welscher Majestät
kein Fürst bald mehr sein Volk versteht;
und welschen Dunst mit welschem Tand
sie pflanzen uns in deutsches Land.
Was deutsch und echt, wüßt’ keiner mehr,
lebt’s nicht in deutscher Meister Ehr’.
Drum sag’ ich Euch:
ehrt Eure deutschen Meister,
dann bannt Ihr gute Geister!
Und gebt Ihr ihrem Wirken Gunst,
zerging’ in Dunst
das Heil’ge Röm’sche Reich,
uns bliebe gleich
die heil’ge deutsche Kunst!


参照:
ロックダウン前最後の演奏 2020-11-01 | 音
モニターの前の評論家 2020-05-04 | 文化一般
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