(承前)日曜日のクロンベルクでは、第一回カザルス賞の授与式もあった。てっきりアカデミーの生徒の中から優秀なチェロ奏者が選ばれるものと勘違いしていた。しかし表彰されたのは、スターピアニストのマルティン・ヘルムヒェンとチェロ奏者ヘッカーの夫妻であった。
選考理由はそのアフリカでの音楽を通じた社会的な活動に対しての授与だった。考えてみればカザルスの名前の下でそうした社会的な活動以外の何ものもその名に価しないことは当然であった。
その為、思いがけなく夫妻お二人のデュオを聴けた。シューマンのファンタジーであった。ヘルムヒヘェンは今最もドイツでいいピアニストだと思うが、それもなにもソリストとしてではなく室内楽奏者としての確かさとその音楽性である。まさしくカザルス賞に相応しいと思う。
この二人の活動を敢えて紹介することもないほどに、その音楽からはそうした今日の演奏家としてやるべきことが聴こえてこないだろうか。少なくともカザルス賞に価する演奏家であると思う。
正面のバルコンでその演奏を聴いた。比較的遠い席であった。やはり室内楽ホールとしてはそれ程大きな音はしない。ピアノが若干後ろに置かれていたこともあって、伴奏としての明瞭さも若干欠けた。前のチェロもそれほど密な響きとはならなかった。やはり質な額でもシュボックス型のホールの方が優れているのは明らかだろうが、視覚的な優位さが何よりもこうしたホールの最大利点だろう。
だからこの新ホールに於いても如何に壁からの反響を作るかに最大の配慮がされたようで、思いがけずに複雑な曲線を描く壁の形となっている。それによって、舞台の一部が見えないというような苦情を生じさせている。
500人収納規模で中規模の管弦楽までが演奏可能なホールとしては中々贅沢なことであり、ここをベースとする欧州室内管弦楽団が今後どのような演奏会を行うのかなども期待されるところであろう。計画途上で天井を上げる必要があったとあるが、その点ではもう少しもの足りない感じがしたが、数値的にはどうなのだろう。
ソリスツの場合と管弦楽団の時では音響を変える様に壁を動かしているとされるのだが、実感からすると、ソリスツの場合も若干暈けて、室内管弦楽団の場合も減衰が十分でないような印象は受けた。現時点での限られた感想であるが、新聞等が書くような最初から微調整も待たないで文句のつけようがないという評価はやはりあまり信用できない。
先頃引退を表明した指揮者のバレンボイムが建設したベルリンのホールも同じような規模であるが、そちらの方は基本的にシューボックス型にフォーラム状の客席を配置してあるようだ。
勿論決して悪いホールでもなく、今後フランクフルトのアルテオパーに行くならばクロンベルクに喜んでいきたいと思う。(続く)
参照:
ピアノ付きの演奏会アリア 2022-10-07 | 女
引き寄せられた街の様子 2022-10-03 | 雑感