■ ロシアが売ってもビクともしなかった米国債 ■
ウクライナ情勢を巡って欧米諸国とロシアの対立が深まっています。ロシアの高官からは米国債を売る事も辞さないという発言も出ています。
しかし、ロシアは3月12日の週に米国債を大量に手放していたらしく、ブルームバーグの記事でも指摘されています。これは米国債に圧力を掛けたというよりは、ルーブルの下落に歯止めをかける為の売却だったのかも知れません。
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N42TPX6JIJUZ01.html
ロシア政府の保有していた米国債保有高は、2013年末時点で1390億ドルで世界で11位。
一方で、ベルギーが米国債保有を急増させるなど、ロシアの米国債売却の穴は直ぐに塞がった様です。ロシア高官の発言に反して、ドル基軸体制はロシアの圧力如きには屈しないのでしょう。
■ 不気味な中国 ■
現在、アメリカ国外の最大の米国債保有国は中国です。2月の中国の米国債保有額は1兆2700億ドル、ロシアのほぼ10倍です。さすがに、この額の米国債が一気に売却されれば市場は混乱するでしょう。
しかし、中国経済は輸出で支えられていますから、国際決済通貨のドルの混乱を中国政府は望んでいません。むしろ、リーマンショック以降、米国債のみならず、MBSも積極的に買い支えていた中国は、ドル基軸体制の安定に大きく貢献しています。
昨今は尖閣問題やその他の領有権問題を巡って中国と周辺諸国との緊張が高まっています。オバマ大統領の先日のアジア歴訪は、不安を募らせるアジアの同盟国に、アメリカがこれらの国とのパートナーシップを重視している事を示す目的がありました。その上での、「尖閣は日米安保条約に適応内」という発言でした。
これは中国にとっては喜ばしい事ではありませんが、中国はオバマの言動に対して、米国債を通じて圧力を掛ける事はしていません。むしろ、先般、オバマ大統領夫人が子供と母親を連れて中国に1週間滞在するなど、米国は中国との緊張緩和に腐心している様です。
■ 見せ掛けの対立 ■
シリア情勢やウクライナ情勢を踏まえ、世間は「欧米 VS 中露」という対立構図を描き始めています。
しかし、中国が米国債に強い圧力を掛けない現状は、この対立は極めて「表面的」なものであると言えます。中露とて、現時点でドルや米国債の崩壊が自分達の利益に繋がらない事を承知していますから、本気で米国債を攻撃する事は出来ません。
アメリカと対立しながらも、片やアメリカを支えているというチグハグな行動は一見不合理に見えます。
しかし、米国は中国からの安い工業製品に国民の生活が支えられ、中国は対米輸出で国家が支えられているのですから、容易に仲を違える訳にも行きません。いつかは対立が拡大するにしても、今では無い事は確かです。
米中が対立を激化する為には、中国は内需中心の経済構造に変化して米国への輸出依存度を下げる必要がありますし、アメリカは安い工業製品の輸入元を、現状よりさらに多様化して、中国依存を脱却する必要があります。
その意味において、TPPは米国とその同盟国のチャイナフリーへの第一歩となるのでしょう。
■ ドルは安全で居られるのか? ■
中国やロシアが国際取引の通貨としてドルを使う限り、ドルは安泰と言えます。逆を言うならば、中露がドルを切り捨てる時、ドルに危機が訪れます。
しかし、管理通貨である「元」も、危機の度ごとに下落する「ルーブル」も国際通貨になるまでには多くのハードルを越える必要があります。
こう考えると、中露がアメリカとの対立を決定的にするのには、まだまだ時間が掛かるのかも知れません。
■ 冷戦時の国債決済 ■
ウクライナ危機を発端に「第二の冷戦」という言葉が聞かれる様になりました。
ここで気になるのは、先の冷戦の時に中国や東側経済圏の国々がドルとどの様な付き合い方をしていたかです。
冷戦当時、ソ連は1ルーブル=2ドルの固定相場を維持していました。自由な貿易を制限する事でこの相場を維持していました。要は、自由な輸入を制限して、国外へのドルの流出を抑えていた事になります。そうしなければ、ルーブルの価値はもっと低いものだったでしょう。
ソ連と言えども石油など必要な物資の決済にはドルを使わざるを得ず、それどころか東側諸国との決済でもルーブルは信用されていませんでした。
中国に至っては、現在でも変動相場には完全に移行出来ていません。中国に関しては、かつてはソ連同様に高いレートでドルに固定して輸入コストを押させていましたが、対米輸出が増えるに従って元をドルに対して切り下げ、輸出を有利にしています。アメリカの国内産業を中心に元の切り上げを求める事が高まるにつれて、レンジを限定した中で、変動制を取り入れていますが、その実態は未だに管理通貨です。(ただし、元は強すぎる事を抑制しています)
■ BRICSは新たな決済通貨を手に出来るか? ■
ロシアやブラジルやインドなど新興国(BRICs)は、アメリカ経済に少し変調が現れる毎に、一気に投資に引き上げが発生して、通貨が下落します。中国も含め、BRICs諸国は以前ドル基軸制度にドップリと浸かっており、その影響を排除する事が出来ません。
一方で、中国は通貨スワップを周辺国との間で拡大して、元の決済通貨化に取り組んでいます。又、BRICs諸国がお互いの通貨で決済するという動くも試され始めています。しかし、何かある毎に下落する新興国通貨では、ドルの様に通貨の価値を安定させる事は難しく、結局は対ドルの為替レートが経済に与える影響は小さくありません。
BRICs銀行を設立するなど、新興諸国はIMF,世界銀行支配から抜け出して、新たな基軸通貨を作り出そうとしている様ですが、輸出によって先進国経済に依存し、かつ、先進国からの投資が経済を支えている現状では、その実現には時間を要するかも知れません。
■ バーチャルな存在としてのドル ■
ドルの強さは世界経済が「ドル」という共通通貨を基本に構築されている強みであり、最早ドルは「貨幣」という価値を越えた、システムとして存在します。
コンピューターでソフトを走らせる時、OSを無視したソフトは使う事が出来ません。これと同様に世界の経済のOSがドルである事がドルの価値を支えています。
証券や債券が電子化され、決済もコンピューター間のデータのやり取りになった現在、ドルとは最早バーチャルな存在となっているのかも知れません。
そして、新興国がドルに変わる通貨を手にする為には、ドルを基本としたバーチャル空間とは別のバーチャル空間を構築する必要があるのかも知れません。
■ ドルは安泰なのか? ■
ここまで考えるて来ると、仮に「第二の冷戦」が起こるとしてもドルの価値は安泰の様にも思えて来ます。
しかし、ここで振出に戻ると、現在のドルと米国債を崩壊させようと思えば、中国が手持ちの国債を売り浴びせるだせけで達成されます。
要は、ドルの運命は中国に握られれいるのです。そして、中国が国内の混乱で政権維持が難しくなった場合、「死なば諸共」とばかりに米国債を売る事も考えられます。
この点だけを撮っても、アメリカが中国政府を刺激したり、或いは中国の体制崩壊を望まない理由としては充分かも知れません。
■ デリケートなバランスを保ちながら危機を演出するウソ臭さ ■
この様に世界はお互いに銃口を突きつけ合った状態で危機を演じており、お互いに決定打を繰り出す事無く、口先での罵り合いに明け暮れています。
一方で、シリアの様に、直接影響の無い国では代理の戦争が繰り広げられています。
■ 危機の為の危機 ■
ここまでは良い子でも理解できる国際情勢ですが、悪い子はもう少し疑いの目を持って世の中を見てしまいます。
中露を含めて、現状ドル基軸体制の崩壊を望まないのであれば、その延命に影から貢献していても不思議ではありません。現に米国債の需給における中国の貢献は小さくありません。
ウクライナ情勢が注目されてから、資金は新興国から米国債に流れています。米国債金利は10年債で3%、30年債で4%に近付いた後、ダラダラと下落しています。
ウクライナでは確かに対立が激化していますが、欧米諸国もロシアも、本気で問題を解決する気概が見えません。
そして、最近は太平洋にて中露の連携が注目されていますが、アメリカ国内で対中強硬論が盛り上がる気配は見られません。
私の様な陰謀論者の目からすると一連の動きは、米国債へと資金誘導する「ヤラセ」に見えてしまったりします。
米国債金利が再び上昇に転じた時、黒田緩和の拡大や、さらなる新興国危機が起こるのではないか・・・当たらない事で有名な人力予測ですが・・・。