■ ベトナムと中国の確執の歴史は長い ■
かつて同じ共産圏の中国とベトナムが戦争をしていた事を知る若い人達は少ないでしょう。
「中越戦争」と呼ばれる戦争で、カンボジアの支配を巡る戦争でした。
カンボジアは中国の支援したポル・ポト政権が支配していましたが、「文化大革命」のカンボジア版とも言える大量虐殺によって国内ではポル・ポトに反抗する動きが高まります。カンボジアと国境を接していたベトナムはベトナム戦争で共産化し、ソ連との関係が緊密でした。
当時中国とソ連はアムール河(黒龍河)の国境線を巡って軍事衝突を起すなど決して中ソ関係は良好とは言えず、ソ連との関係が親密であったベトナムにとって、中国の傀儡政権であったポル・ポト政権は煩わしい存在でした。
ポルポトの圧政に反抗する形でカンノジアで内戦が発生すると、べトナムは反政府軍を率いるヘン・サムリンを支援する名目で、カンボジア領内に侵攻します。そして、ポル・ポト政権は打倒され、1979年1月にヘン・サムリン政権が樹立されます。
これに対して中国は50万の兵をを中国とベトナムの国境に集結させ、10万の兵力でベトナム領内へと侵攻します。主力軍をカンボジアに投入していたベトナム軍は、北部の戦線で後退を続け、ハノイ近郊に防衛ラインを築きました。
ハノイ近郊でベトナム軍の主力が合流した為、ここで戦闘は膠着状態となりまさすが、ソ連から武器供与を受けてアメリカ軍を撃破したベトナム軍は中国軍に引けを取らず、止む無く中国軍は国境まで撤退します。
それ以来、中越国境は緊張を続けていましたが、中国が改革開放路線を打ち出して経済発展を続け、同様にべトベムも資本主義経済を導入するに当たり、経済大国となった中国との関係は改善して行きます。
近年は中越国境では人民元で貿易決済が行われる程、緊張緩和は進んでいました。
■ 西沙諸島、南沙諸島における中越の対立 ■
南シナ海における中国とベトナムの対立は、最初はアメリカに支援を受けた南べトナムと中国の領土問題でした。
「西沙海戦」とも呼ばれる戦闘が、1974年に発生しており、装備に勝る中国海軍が南べトナム海軍を圧倒し、西沙諸島を占拠します。この戦闘ではアメリカ海軍が支援をしている事からも、東西対立の一環の中で行われた戦闘でした。
一方、共産化したベトナムと中国の間で1988年に南沙諸島の環礁の領有を巡って衝突が発生しています。この衝突は中越戦争の中で起きた共産国家同士の戦いです。
中国は南沙諸島(ベトナム名 チュオンサ諸島)を防衛するベトナム海軍に対して攻撃を仕掛けます。満潮時に海面下になる環礁の一つをベトナム軍が防衛していましたが、ほぼ無抵抗のべトナム兵士達を、中国海軍は艦船から銃撃し、100名あまりのベトナム兵の命が失われました。
中国とべトベムは当時戦争状態でしたから、この戦争においてどちらが悪いという判断は出来ません。しかし、無抵抗の兵士達を虐殺した事で、ベトナム人の中国への憎しみを深いものにしています。
Youtubeに当時の映像がアップされています。多分、べトナム人女性と思われるたどたどしい日本語のナレーションが付いています。
映像にある様に、ほぼ無抵抗な兵士達に、中国海軍は予告射撃無く、大口径の機銃を集中射撃しており、これは当時の海軍関係者にショックを与えました。ほぼ虐殺に近い状況です。
■ 国境を接する国に付きまとう領土問題 ■
私は中国が悪いともベトナムが正しいとも判断は出来ません。国境を接する国が戦争状態に陥れば、国境付近での戦闘は避けられません。特に制海権に絡む離島の領有を巡っては、両国が自国の正統性を主張して戦闘も厭いません。
特に当時は、ベトナムも中国も近代国家としては幼く、領土的野心を隠す事をしない時代でした。
■ 古くて新しい対立を刺激するのは誰 ■
問題は日韓の竹島問題や、日中の尖閣問題、フィリピンやベトナムと中国の間の西沙・南沙諸島問題など、昔から存在する領土的対立が、最近になってクローズアップされて来た事です。
直接的な原因は中国海軍が近代化によって沿岸海軍から外洋作戦行動も行える海軍に成った事にあります。中国は国益上、南シナ海や東シナ海の制海権を確立したいと望んでいます。
この地域の軍事バランスはかつてはアメリカの第七艦隊によって守られていました。第七艦隊に中国海軍は逆立ちしても適わないので、中国の制海権や領土的野心は抑えられていました。
同時に中国は経済成長を遂げる上でアメリカからの投資を必要としていましたから、表立ってこれらの地域で問題を荒立てる事を避けていました。
中国経済のアメリカへの依存度は以前低くは無く、さらに中国経済はアメリカの投資によって発展しています。その意味では、中国は現在もアメリカと対立を深めるメリットはあまりありません。
それなのに、尖閣を始めとする領土問題を活発化させています。一方で、日本やフィリピンやベトナムもこれらの地域の領有を巡り、中国を刺激する事を繰り返しています。
■ アメリカを引き止める為のヤラセ? ■
一部には中国を巡る領土問題は、アメリカ海軍のアジア地域からの撤退を引き止める為の日本やフィリピンやベトナムのヤラセだという見方をする人達も居ます。
しかし、アメリカは身勝手な国ですから、アジア地域で自国の利益が無いと思えば、第七艦隊を中国軍の脅威に曝す様な事はしません。とっとと、ハワイ-グラムラインまで後退します。
米軍は財政難回避と兵器の近代化の名目で、「トランスフォーメンション」と言う戦略上のロードマップを作成しており、世界各国から軍を引き上げる方向に動いています。
在韓米軍は2016年に撤退させると発表され、韓国での指揮権は米軍から韓国軍に移管される予定でした。沖縄在留米軍のグアム移転も、この流れの中で実施される予定でした。
■ 昨今のアジアの緊張はアメリカの戦略変更か、或いは置き土産か? ■
先日オバマ大統領が来日した際に、「尖閣諸島は日米安保条約の適用内」と明言しています。これは以前ヒラリー元国務長官も口にしていたので、アメリカが戦略を変更さいた訳ではありません。従来通りの立場を確認しただけです。
この発言に勢いを得た様に、安倍政権は集団的自衛権の確立に向けて本腰を入れ始めました。「アメリカが後ろ盾になってくれるなら戦争も辞さず」的な姿勢とも言えます。
しかし、グアムの米軍基地の拡張は着々と進行しており、アジアの海兵隊の主力はグアムに後退する事は確実な様です。
戦略的には沖縄の海兵隊基地は中国本土からあまりにも近すぎて、有事の際には中距離ミサイルの良い標的となります。ミサイルによる先制攻撃が可能な現代において、沖縄は既に戦略的な価値を失っているとも言えます。
もし日中間で尖閣紛争が発生した場合、中国が沖縄へのミサイル攻撃という冒険に出る可能性はゼロではありません。もし、米軍兵士に犠牲が出れば、米中開戦という事態が回避出来なくなるかも知れません。世界の安定の為には、米軍を韓国や沖縄に駐留させておく事はリスクになります。米軍はオバマ大統領の発言とは裏腹に、徐々にアジアから徹底して行くのではないでしょうか。
一方、米軍が抜けた穴を、日本やその他の国は自力で補わなければなりません。自衛隊は沖縄地域に戦力の移動を始めています。従来は「日本の覇権主義の復活」とアジア諸国の警戒を煽る為に控えていた戦力移動を実行する程、日中間の緊張は高まりつつあります。
こうして、アジア各地で中国との緊張を煽りながら米軍は軸足を中央太平洋に写し、アジア諸国は米軍から武器を大量に購入して中国と対峙する事になります。
これは従来の「オレが守ってやるゼ」という姿勢から「言う事を聞かないと守ってやらないぞ」という姿勢に変化している様に思われます。
米軍に直接被害が発生しなければ、アメリカが戦争に巻き込まれるリスクは格段に減ります。
■ 適当な緊張を演出しながら、アジアの盟主の座を獲得するアメリカ ■
アメリカは中国と全面的に対立する気などありませんが、領土紛争が発生して犠牲者が出れば、日本やその他のアジアの国と中国の関係は完全に断たれます。
中国があまり露骨な拡大戦略を取ると、アメリカが出て来ざるを得ないので、多分中国が侵攻するにしても尖閣諸島を占拠するとか、南沙諸島か西沙諸島で死者が出る様な小競り合いをするとか、38度線を越えて北朝鮮が韓国領内にちょっとだけ砲撃する程度だと思われませす。
しかし、これによって中国とアジア諸国は完全に対立し、アジア諸国のアメリカ依存が劇的に高まります。
アメリカは直接的な戦闘をする事無く、アジアの盟主に収まる事が出来ます。
■ ベトナム兵の虐殺映像を見て、日本の軍事費強化を訴える人は・・・ ■
私は陰謀論者なので、「戦争は世界を変革する道具」だと思っています。さりとて小規模な戦闘においても確実に誰かの命が失われて行きます。
「戦争を抑止する最大の手段は核兵器の保有ですが、それが認められていない以上、日本は軍備拡張によって中国軍が容易に戦争を起さない様にするべきだ!」というのが昨今の保守派の主張かと思われます。
しかし、悲しい事に、日本が軍備を拡張しようが、拡張しまいが、誰かが戦争を欲れば、小規模な紛争など簡単に起こす事が出来ます。
現代の戦争は単純な領土的侵略を目的とするのでも無く、相手を殲滅する事を目的とするのでも無く、単に「世界のバランスを変更」する為の道具に過ぎません。
そして、悲しい事に、世界の経営者が戦争を欲する限り、それを抑止する事は不可能なのでしょう。日本国民がどんなに憲法改正に反対しても、専守防衛を貫こうとも、中国がその気になれば、尖閣紛争は明日にでも勃発します。
それを防ぐ手立ては・・・国家の否定ですが、アナーキズムは諦めの一つに過ぎません。
私は、「世界は一部の人達にコントロールされている」と皆が信じる事で、現実的な危機のリアリティーが消失する事が唯一の私達に残された手段だと信じています。
「尖閣で衝突が起こりそうだって!!」
「イヤ、イヤ、あれ、ヤラセだから」
こんな具合に両国の国民が好い感じで「シラケ」てくれるのならば、それが一番なのですが・・・。
何故か〇〇平という中国の元首席の名前を書くと、ブログの一部、或いは全体が文字化けしてしまいます。これ、以前にも起きました。禁句なんですかね・・・。