本日は「現代におけるお金とは何か」という事を、ダラダラと考察します。あまり考えが纏まっていませんが、何となく、「お金」という物が、従来の概念から変質している様に思えてなりません。ゲームのスコアーの様なバーチャルなお金に危機が訪れるとすればどういう状況なのか・・・・次の危機を占う上で、通貨の質的な変質は重要なポイントとなると思うのですが・・・。ちょっと私には難し過ぎる命題ですね。
■ ハードカレンシー(国際決済通貨) ■
昨日、ドルについて考察した時に、「ドルはバーチャルな存在なのかもしれない」と書きました。本日はその点について少し考察してみたいと思います。
ドルの価値を支えているのはドルが国際決済通貨である事です。
ドルを持っていれは、海外から色々な物を買う事が出来ます。これが、例えばマレーシアの通貨であるリンギットなどでは相手国は受け取りを拒否するでしょう。何故なら、リンギットを持っていても、いつ暴落するか分からないので価値の保存に不安があるからです。当然、手にしたリンギットで買い物しようとしても他国も同じ理由でリンギットを受け取りたがりません。
現在世界ではドルとユーロと円がハードカレンシー(国際決済通貨)として通用します。
ユーロはドルに次ぐ信用力を誇りますが、ユーロ圏の経済規模の大きさ、生産力、需要、そして歴史的信用がユーロの価値を担保しています。ユーロは「拡大マルク」と言える存在ですから、ひとえにドイツの信用力が高い事がユーロの価値を支えているとも言えます。
円もハードカレンシー(国際決済通貨)として認められています。巨大な財政赤字を抱える日本とドイツには信用力に大きな隔たりがある様に思えますが、仮に世界の通貨がガラガラポン状態になった時に、やはり国内に巨大な生産力を保有する国は信用の回復が速い事を考えれば、円の信用は日本国内の生産力に支えられていると言えます。
■ バーチャルな通貨 ■
お金は「金」でこそ無くなりましたが、紙幣として実体を持ったものとして私達は認識しています。一方で、金融取引などでは通貨はコンピューター上のデータとして扱われ、実際の紙幣が行き来する事はありません。
こう考えると、「現在の通貨はデータである」と言う事も出来、急にお金の存在がバーチャルなものに思えて来ます。通貨だけでなく、証券や債券や国際などもデータ化される事で、取引は電子化されています。この様に、現代の世界ではお金とそれに準じる多くの物が電子化され、データとなって流通しています。
■ デビット・ボウイをデータ化する ■
20年程前に「証券化」という言葉が流行りました。人間として最初に「証券化」されたのは確かデビット・ボウイではなかったかと思います。
「人間を証券化」というと変な感じですが、「デビット・ボウイ」を個人としてでは無く「お金を稼ぐ企業」として捉えた場合、「デビット・ボウイ」に「投資」して「金利」を得る事が出来れは立派に個人も投資の対象になり、証券化も可能となります。
本来、個人がお金を借りる時は銀行に行き融資担当と折衝するか、知人にお金を借りる必要があります。しかし、個人でも証券化されてしまえば、他の証券同様に市場で売買する事が可能になり、より広範な人達から少しずつ大量の資金を集める事が出来ます。
証券を買ってデビット・ボウイに出資した人は、資産の一部を証券購入に充てているだけなので、デビット・ボウイが仮にドラックのオーバードープで急死したとしても、全財産を失う様な事はありません。
現代では証券はデータ化されていますから、デビット・ボウイはデータ化されたと言う事も出来ます。
■ 誰かの借金をデータ化したMBS ■
証券化は本来は動かす事の出来ない不動産などをデータ化する事で、流動性を高める役割を果たします。
例えば、不動産REITではビルを建てたい人は市場を通じて資金を迅速に集める事が出来ます。ビルという不動産は、借金を通して証券化されたのです。
リーマンショックの引き金となった不動産担保証券(MBS)も同様です。個人は住宅ローンを組んで銀行からお金を借りますが、銀行は債権をフレディーマックやファニーメイの売却します。この時点で銀行はローンが回収出来なくなるリスクから逃れる事になります。
フレディーマックやファニーメイは多くの住宅債権をグチャマゼにして住宅担保証券(MBS)を組成します。この中には破綻リスクの高い物件も、低い物件もある程度の量が混じっています。ただ、全体の内の3%以上が破綻しなければ投資に対するリターンは損なわれません。
MBSはデータ化された証券として世界各国の金融機関やファンドに売られます。この時点でリスクはMBSの購入者に移動します。要は、MBSとは、住宅を購入した誰かの借金が細切れにされたデータとして流通している物だと言えます。
■ 債権や証券がお金を生み出している ■
この様にデータ化する事で、流動性は格段に向上します。流動性が高いという事は売買が容易だと言う事です。データ化された誰かの借金は、市場で盛んに取引される様になります。
市場に資金が集まれば、証券や債券の価格は上昇します。そこで、将来的な価格上昇を見込んで、世界の余剰資金が市場に集まり出します。さらに価格が上昇すれば、借金をしてこれらの債権や証券を購入しても利益が出る様になります。
ここで問題になるのが「信用創造」という現在のお金を作り出すシステムです。銀行は預金の内の10%を準備預金として手元に残し、残りの90%を貸し出す事が出来ます。単純化する為にお金を借りる人と預ける人が同一だと仮定します。預金者は自分で借りたお金を再び預金してさらにその9割を借りる事を繰り返す事が出来たとします。するとお金は何倍にも膨れ上がります。これを「信用創造」と言います。
信用創造で重要なのは「お金の借りて」が存在する事です。そして、お金の借りてが存在する為には「利益が見込める投資先」がある事が重要です。
リーマンショック以前の金融市場は、世界の資金が集まる事で相場が右肩上がりに上昇していました。ヘッジファンドなどが巨大な資金を投入していたからです。
■ データ化したお金が消える? ■
市場取引でやり取りされる時のお金もデータです。データ化した商品をデータ化したマネーで売り買いしている訳です。
巨大なマネーが目まぐるしく行き来してもデータなのでコストはシステムの維持費程度しか掛かりません。こうして電子化した市場の中で、電子化したお金がめまぐるしく動き回る事で、「信用創造」が肥大化して行きます。事ここに至っては、取引される商品の元の姿など何でも良くなっています。
ところがリーマンショックの様な危機が起きると事態は一変します。
実体の無いデータの価値は非常に不確かなものです。例えば、サブプライムローンで破綻したローンを含むMBSが混入した金融商品が手元にあっても、たった1万円の債権を取り立てる為にアメリカまで航空運賃を払って行く事は出来ません。そこで、これらの不良債権が混入した金融商品やMBSの値段が崩落します。
人々は借金をして買ったこれらの商品の値段が下落してしまう前に、これらの商品を売却して借金を返済しようとします。こうして「信用収縮」が一度始まると、「信用創造」によって生まれたお金は一気に消失します。
お金自体がデータなので、幻が消えるが如く、お金は消えて無くなります。
■ 「復活魔法」で増えたお金 ■
この様に市場が崩壊する過程で、本来ならば価値のある証券や債券の価値が過剰に消失します。これがバブルの崩壊です。
値段の暴落したMBSや金融商品を大量に抱えた金融機関は、時価評価に耐えられません。そこで、これらの商品を額面の7割で評価する事と、政府が税金を使って金融機関に資金注入する事で、金融機関は債務超過によって破綻する事を免れます。
この過程もある意味、データ処理とも言えます。ゲームでライフポイントが増えた状態に近いものがあります。
さらに各国の中央銀行はMBSや国債を大量に市場から買い上げて、さらにライフポイントを市場に供給しました。これが量的緩和(QE)と呼ばれるものの正体です。
リーマンショックという決定打を浴びてライフポイントがゼロに成りかけた市場は、中央銀行の回復魔法で蘇ったのです。
この過程で、マネタリーベースはイギリスで4倍、アメリカやユーロ圏で3倍も増加しています。
■ バーチャルな世界でしか使えない「バーチャルなお金」 ■
マネタリーベースが拡大する過程で、実体経済はほとんど拡大していません。供給された資金は、市場が飲み込んでしまったのです。
回復魔法が効果を発揮するのは市場の中に限定され、実際の世界はゼロ金利の罠に囚われているので、魔法は発動されません。
リーマンショック以降、各中央銀行が投入したお金は、バーチャルの世界の中でしか活用出来ないので、これらのお金は実体経済から切り離される事で限りなくバーチャルな存在であるとも言えます。
円もドルも実体経済の中で流通するお金と、市場の中で流通するお金は、同じ様でありながら実は違うものになっているのです。
■ バーチャル世界で取引されるバーチャルなお金 ■
さらに為替市場ではお金自体が取引されます。ここでも巨大な資金がデータとして行き交います。FXなどは個人がこの取引に参加出来る様にしたゲームの一種と考える事な出来ます。
既にここまで至ると、お金は本来の姿を失い、ゲームのスコアーやライフポイントと化しています。ビットコインと本質的には同じ物と言えます。
■ お金の「ポストモダン」 ■
この様に金融市場の過度の発達は、お金の概念自体を従来の「モノ」中心から「データ」に変革してしまいました。
これはある種の価値観のパラダイムシフトで、お金の「ポストモダン」化と捉える事が可能です。
■ 依然としてお金は実体経済でも使える ■
半ば「データ」という概念的な存在となったお金ですが、実際の社会ではお金があれば好きな物が買えます。要は、お金は依然として旧来の価値を失ってはいません。
結局、現代の社会は、「市場」という閉鎖空間の取引の中でお金がどんどん増えており、そこからあふれ出すお金が実体経済で使われているとも言えます。キャピタルゲインで生計を立てている人達は、まさにこれに相当します。
何だかゲームのスコアーとしてビットコインを賭けている状況に似ているとも言えます。
■ 実体経済で金利上昇の力を奪われたマネー ■
リーマンショックで大打撃を受けた市場ですが、世界経済も市場もリーマンショック前の状況に回復したと言われています。しかし、現在の市場はゼロに近い金利で供給される資金に支えられていますから、この供給が途絶えれば、一瞬で「信用消失」の連鎖が始まり、市場は崩壊します。
FRBはQE3こそ縮小していますが、金利についてはしばらくゼロ金利を継続するとアナウンスしています。FRBや日銀、ECBがゼロ金利を継続する限り、市場は安心してゲームを続ける事が出来ます。
では中央銀行が金利を引き上げざるを得ない状況は何時起きるのでしょうか?それはインフレ率が過度に上昇し始めた時です。2%程度のインフレは必要とされているので、4%、6%と物価が上昇し始めれば金融緩和は継続不可能になります。
しかし、アメリカの実体経済は回復したとは言え、需要は低迷しており、コアコアCPIの上昇も低調です。現在の需要は、低金利の住宅ローンや自動車ローンで無理やり作り出しているものですから、自律的回復には程遠いものがあります。
中央銀行の金融抑圧政策の元では、実体経済の投資の金利利益は抑制されていますから、資金は金融市場や資産市場などのバーチャル空間にプールされ、実体経済でインフレを起す力を奪われているのです。
ここまでダラダラと考察して来ましたが、通貨の質的な変質が、従来の経済理論を無効化している様に思える昨今の世界情勢です。
一方で危機はバブルの再来では無く、意外にもアメリカの通常の景気循環の後退期に現れる様な気もしています。そういった意味においては、リーマンショック以降回復を続けて来た米国経済がどこでピークアウトするのかが焦点になるのかも知れません。
現在の世界は葬送行進曲を掛けながら椅子取りゲームを続けている様に私には感じられます。派手な曲を期待していると、肩透かしに合うかも知れません。