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リストの『超絶技巧練習曲』とウクライナ・・・マゼッパ

2015-10-02 06:39:00 | 音楽
 



■ リストの『超絶技巧練習曲』■

古いLPレコードを整理していたら、昔ジャケ買いしたリストの『超絶技巧練習曲集』が出て来ました。実は『ラ・カンパネラ』が欲しかったのですが、この曲は『超絶・・』の曲では無かったのですね。だから、このレコードは長い間、聴くことも無く眠っていました。

こんなレコードいつ買ったっけ・・・なんて思いながらレコード針を落としてみてビックリ、まさに『超絶技巧』の演奏が飛び出して来ました。演奏しているのは旧ソ連のピアニストのラザール・ベルマン(Lazar Berman 1930-2005年)という人。1963年の録音ですから、私の生まれる前の演奏です。

Youtubeに音源がアップされていたので第4曲『マゼッパ』をちょっと聴いてみましょう。



左手の和音が混濁しがちと言われるこの曲ですが、フォルテシモはまさに雷鳴の様。ダイナミックなスケール感と繊細さを合わせ持つ素晴らしい演奏です。

この曲、どこかで聞いた事が有るなと思い「これって水谷豊が弾いていたやつ?」って聞いたら、カミサンは英雄ポロネーズのフレーズを歌い出した・・・。「うーん、それじゃなくて・・」

ネットで調べてみたら、水谷豊が『赤い激流』で弾いていたのは次の曲目だった様です。

1次予選:ショパンの「英雄ポロネーズ」
2次予選:リストの「ラ・カンパネラ」
本選:ベートーベンのピアノソナタ「テンペスト」

ちなみにピアノ演奏は羽田健太郎が担当しています。

■ フランツ・リストは現代のビジュアル系ロックスターの元祖 ■

リストの『超絶・・』は、昔は多くの演奏家がチャレンジしていたと記憶していますが、最近は演奏される機会が減っています。(私は30年程前にリヒテルの人見記念講堂の演奏会で聴いたと思い込んでいましたがどうも記憶違いでした・・・。)

確かに演奏は難しく超絶技巧を要求するのですが、曲としての出来栄えはショパンの方が優れており、技巧的にもショパンの方が実は難しいというのが、評判が落ちた理由の様で、最近ではコンテストの課題曲にもんならないとか・・・。

ネットの質問箱を覗くと「超絶を弾きたいのですが」という若い子の質問に、「手を壊すだけで全然良く無い。古典からしかりと練習しなさい」などという回答が書かれていたりします。

すっかり評判が下がってしまったリストですが、『ラ・カンパネラ』の演奏などを見るとカッコイイ!!・・・しかし、良く見るとこれって右手で弾く所をワザワザ左手を交差させて弾かせてないか・・・。

そう、リストの超絶技巧の曲ってカッコよく「見せる(魅せる)」為に書かれているのです。まさに「ビジュアル系」の元祖。



実はリスト本人はチョー・イケメンで、演奏会でご婦人方が失神する程のスーパースターだったのです。さらに現代でも彼を超えるピアニストは居ないと言われる「ピアノの魔術師」でした。

ですからリストのピアノ曲は生の演奏会で「見て」ナンボのものなのかも知れません。

■ ウクライナの第二の英雄、イヴァン・マゼーパ(マゼッパ) ■



ところで前出の『超絶技巧練習曲集』の第4曲『マゼッパ』ですが、ちょっと変な曲名なので気になって調べてみました。

イヴァン・マゼーパ(Jan Mazepa Kołodyński 1639 - 1709年)はウクライナのコサックの棟梁だった人物です。ロシアのコサック兵で有名なコサックは、ウクライナがまだ荒野だった15世紀半ばに草原地帯で勃興した武力集団だそうです。自由と独立を重んじるその気風からリトアニア王国の影響力が及ばない地域で自治制を有していました。ただ、援軍として数々の戦闘で勇敢に戦った様です。

マゼッパはウクライナ・コサックの勢力拡大に尽力した人物としてウクライナ人に人気が有り、ロシアのピヨトル1世に背いてスエーデンと組み、ロシアと戦おうとしますが、ポルタヴァの戦いで敗れ、マゼッパはトルコに敗走します。その後ロシアはウクライナへの影響力を強め、コサックの自治も廃止されます。

ウクライナはその後ロシアやオーストリアの影響下に置かれますが、18世紀に勃興した民族主義によって独立の気運が高まり、ついに1917年、ろしあ帝国の滅亡によって独立を勝ち取ります。しかし、社会主義政権となたキエフ政府は1919年以降ロシアの傀儡政権と化し、ソビエト連邦時代にも事実上ロシアの支配を受ける事になります。

この様に、ウクライナの歴史は周辺諸国による占領の歴史、とりわけロシアの支配下に置かれた時代が長く、現代のウクライナ国内でロシア人の排斥が起こるのは当然の事とも言えます。コサックの子孫達はロシアは歴史的に敵視しているのです。


現在も民族主義が台頭するウクライナですが、リストの時代にはスラブ系民族を中心として民族主義が台頭し、リストと同時代の作曲家達の中にははスメタナやドボルザークの様な「国民楽派」と呼ばれる民族主義を象徴する人達が活躍します。リスト自身はドイツロマン派に分類されますが、『マゼッパ』を題材に取り上げている事からも、この時代の民族主義と無縁では居られなかったのかも知れません。(民族主義がロマンチックと受け止められていた影響が大きいと思いますが)



本日はお蔵入りしていたLPレコードを聴きながら、ウクライナの歴史をちょっと勉強してみました。