■ ブロック経済と戦争 ■
TPPの仕掛け人はグローバル企業です。基本的に彼らは国際分業によって生産性を最大化させ、関税撤廃によって市場を拡大する政策を好みます。1947年に締結された「GATT=関税及び貿易に関する一般協定」の時代から、関税撤廃は資本家達の悲願であります。
国家間で産業の競争力に差が有るのは当たり前の事で、国内産業を守る為には関税は必要不可欠なものです。例えば、日本の農業はアメリカには逆立ちしても敵いません。
一方で、国内産業を手厚く保護していれば国民にとって幸福かと言えばそうでも有りません。最大の例が「鎖国」ですが、日本が江戸時代の状態で鎖国を続けていれば、日本人は現在の様な豊な生活を営む事は出来ません。明治の開国以降、日本は生糸の輸出、紡織産業の育成、軽工業から重工業への転換と産業構造を変化させて来ました。江戸時代の農業国家から、工業国家への転換を成功させ現代に至ります。
第二次世界大戦以前は、帝国主義各国は自国の経済ブロック内での貿易の自由化を推進します。一方で自国経済ブロック以外には閉鎖的な政策を取りました。
ブロック経済が成立する為には、ブロック内で「資源」「生産」「消費」が完結できる事が不可欠です。速い時期にブロック経済圏を確立したイギリスに対して、フランスやドイツ、さらにはロシア、そして日本は遅れて帝国主義の競争に突入します。帝国主義において利益の最大化は、いかに多くの資源と市場を確保するかに掛っていますから、各国が「分捕り合戦」を繰り広げ、最終的には世界大戦にまで発展します。
■ 国際分業と平和 ■
GATTの自由貿易の精神は大戦の反省の上に成り立っているとも言えます。国家間の貿易を自由に活発化させる事で、経済がブロック化する事を防ぎ、再び帝国主義が台頭する事を防ごうとしたのです。
「利益を最大化したい」という国債資本家達の本音も混じってはいますが、自由貿易が戦争を抑止できるのであれば世界の人々にとって必ずしも悪い結果だけをもたらす物ではありません。
それぞれの国が産業の発展度合いや気候風土に合わせて得意分野に特化する事で、国家間の相互依存も高まります。食糧自給が出来ない国は、食糧輸出国に依存しますし、工業国は資源国や市場として将来成長するであろう後進国や新興国の発展に投資します。この様な国家間の相互依存が高まると、国家間の戦争はデメリットこそ在れ、メリットが無くなるのです。
■ 千年来の戦争に終止符を打ったヨーロッパ ■
国家間の相互依存体制を勧める実験はヨーロッパが先行しています。ヨーロッパの国々は千年以上も戦争を続けて来ました。しかし、第二次世界大戦を経験してヨーロッパの人々はこれ以上の戦争が何もメリットを生まない事を痛感します。そして彼らはヨーロッパの統合によって戦争を抑止する道を歩み始めます。
ECという共同体はEUへと進化して、経済活動の国境を事実上取り払い、不完全ならがもユーロという共通通貨を導入します。域内の財政統一が実現すれば、EUは巨大な連邦国家として機能するのです。
■ 若い連邦国家の実験 ■
ヨーロッパは古い国々の歴史や因縁が堆積した地域だったので国家統合に時間を要しましたが、新しく生まれた国は国家誕生の時から連邦国家の道を選択します。アメリカ合衆国やソビエト連邦が良い例でしょう。アメリカの諸州は移民たち連合体が発展した物とも言えますが、帝国主義の時代にそれぞれの州ではヨーロッパに対抗出来ません。そこで彼らは州の独立性を保ちながらもアメリカ合衆国を作り上げます。アメリカ合衆国とは「経済」と「軍事」という共通利益によって出来上がった実験国家だとも言えます。
ソビエトは元々多くの人種と多くの国が存在した地域を連邦にまとめ上げますが、それが成功し原因は、それぞれの国や地域に「国民国家」という意識が存在していなかった事が大きいく作用しています。「貴族」と「農民」という階級対立を「共産主義」によって煽る事で、国家や地域の枠を超える連邦国家を樹立します。しかし、「共産主義」のイデオロギーの後退によって、巨大実験国家はあえなく瓦解します。
■ TPPはブロック経済となるのか? ■
日本の国内からだけ見ているとTPPは国内産業にとっての脅威として受け取られがちです。「黒船」が襲来した様なイメージで捉えられています。
一方で、戦後一貫して続いている「自由貿易」の推進という観点からはTPPは避けて通れない道とも言えます。未だ全容は明らかになっていませんが、将来的にはEU型の経済統合や政治的な結束、さらには集団安全保障体制へと発展して行くのでしょう。
世界の歩みとしては前進と思えるTPPですが、域外との関係性を間違えると「ブロック経済」化する恐れが有ります。
中国は「周回遅れの帝国主義国家」と言えますが、ロシアもイデオロギーを失った時点で「帝国主義的拡大主義」に取りつかれている様に見えます。これらの国々は他の先進国の様に「反省」の歴史を有していません。
この様に「国家観」や「世界観」の成熟度が低い国からTPPやEUを見た場合、彼らの目にはこれらの経済圏が戦前のブロック経済圏の様に映るかも知れません。
■ 資源国がブロック化するのでは無いか? ■
昨今の資源価格の下落で元気の無い資源国ですが、ロシアとサウジアラビアの間に接近が見られるなど、利益を共有する資源国が将来的に結束する事にメリットは大きいでしょう。
中東諸国を始めとして、資源国は従来は先進工業国に搾取される立場に在りました。それに対抗してOPECの様な資源国の共同体も出来ましたが、各国の利害の対立からOPECは機能不全に陥っています。強いリーダーの不在が原因です。
仮にロシアが資源国のリーダーとなり、中国がそれをサポートするならば、中東や南米の資源国は結束を強め先進国に対抗する事が出来るかも知れません。
中東や南米ではかつては革命によって国民を代表する政府が出来ても、イギリスやアメリカの謀略によってそれらの政権は短命に終わっています。かつてこれらの革命政府が目指したのは「共産主義や社会主義」でしたが、この裏には世界革命を目指すソビエトの存在が有りました。
現代において「社会主義革命によって国民の幸福を実現する」というスローガンは色あせてしまいましたが、現在でも共産主義国を続ける中国も、かつての巨大共産主義国家のロシアも共産主義のDNAは未だに残っています。産業を国家管理する事に失敗した共産主義ですが、資源を国家管理する事にはメリットも大きいはずです。
ロシアはソビエト崩壊後、オレガリヒと呼ばれる新興財閥が台頭して石油がガスの利権を独占します。彼らは西側の資本家の支援を受けていたと言われますが、そのオレガリヒを駆逐して資源の利権を国家に取戻したのがプーチンです。石油やガスは戦略物資として機能するので、ロシアはそれらを背景に国際的な影響力を高めています。
中東は石油利権を先進国に簒奪されていましたが、エジプトのナセルが革命によってこれを国民の手に取戻します。それに続いたのが、イラクのフセイン、リビアのカダフィー、シリアのアサド、イエメンのサンハーレらが続き、そしてイランの革命と繋がります。彼らの革命は当初、ソビエト型の社会主義を目指しますが、部族社会の中東でそれは失敗に終わり、次第に権力を維持する為の独裁になって行きます。
この様に、資源国ではかつて社会主義的な政権が誕生した経緯から、資源の国家管理という方向に進みやすいのでは無いかと私は妄想しています。
■ 資源の国家管理を阻む勢力 ■
フセインやカダフィー、そしてアサドの排除が中東で行われた背景には、将来的にロシアを中心とした資源国の連合体が形成される事を防ぐ目的が有るのでは無いか・・・。敵の敵は味方の法則によって、これらの指導者達はソ連(ロシア)や中国との繋がりを重視して来ました。
これらの独裁的な指導者を排除し、部族間、宗派間の対立を煽れば、中東はいつまでたっても烏合の衆です。国内での影響力を強める為に、アメリカにすり寄る勢力は必ず存在します。
一方で、本気で国の将来を考える者は、ロシアと資源連合を組む事を否定しないでしょう。そしてそこに中国が需要国として関わる事は、彼らにとって大きな利益となります。
■ 決定的なブロック間の対立は成立しない ■
EUやTPP、そして資源国連合の様なブロック化が進むと戦争の火種になるのでは無いか・・・歴史を踏まえるとその様な心配が生まれて来ます。
しかし、資源国連合の結束が強まると、意外にも力は均衡する様に思われます。先進国は資源国に依存せざるを得ないからです。
グローバル企業が利益を最大化させる為には資源は安いに越した事は有りませんし、新興国や後進国の市場も支配したいし、労働力も手に入れたい。しかし、これが過度に進むと、貧富のい差の拡大によって世界や社会は不安定化し、資本主義は自壊します。
仮に、世界に神がごとき経営者が存在するのならば、資本主義の崩壊を望みはしないでしょう。その意味においては現在の過度なグローバル化はどこかで歯止めが掛る必要が有ります。
■ 資源国の結束のきっかけになる戦争は起こるのかも知れない ■
では戦争の心配が全く無いのかと言えば・・・・そうとうも言い切れない。
所詮は烏合の衆である資源国を結束させるには共通の敵が必要です。例えば、南シナ界で米中が対立を深めるなどのセレモニーが起こるかも知れません。バラバラの中東諸国が結集する最大のイベントは・・・やはり対イスラエルとの戦争です。
世界は50年、100年という歳月を掛けてその姿を変えて行きますが、その陰にはいつも戦争が存在して来ました。
世界大戦という「大きな戦争」では無く、地域紛争という「小さな戦争」が世界の姿を変える切っ掛けとして利用される事に私達は注意が必要なのかも知れません。
折しもアメリカでは大統領候補を選ぶ戦いが繰り広げらていますが、メール問題で脱落したかに見えたヒラリーが復活しつつ有ります。バイデン副大統領が立候補しなければヒラリーが民主党候補になる可能性が高まっています。
一方、共和党候補はトランプ氏は大統領の器では無いので、彼が脱落した後は小粒な争いとなりそうな予感。結果的に意表を突いてヒラリー・クリントン大統領が誕生する可能性も皆無では無くなって来ました。
意外にもアメリカの開戦時の大統領は民主党だったりします。太平洋戦争を始めたルーズベルトも、ベトナムの派兵を拡大したケネディーも民主党の大統領でした。
まあ、いつもながらの妄想ですが・・・米大統領選を楽しみ方の一つとして・・・。