■ 過去に縛られる『平成ゴジラ』と、新たな創造を目指した『平成ガメラ』 ■
ニコ動に『ガメラ3 イリス覚醒』の冒頭に渋谷破壊シーンがアップされていました。(音楽は差し替えられているのであしからず)
平成ガメラシリーズは1984年に復活したゴジラシリーズが好評だった為に、大映も看板怪獣のガメラを復活させて一儲けしようと始動したプロジェクトでした。
当初の予算は5億円、監督を引き受けた金子修介はこんな予算では子供騙ししか作れないと落胆しますが、脚本に伊藤 和典(『うる星やつら』『パトレイバー』の脚本家)、特撮に樋口真嗣(ゴジラの怪獣造形)を得た事で本格的な怪獣映画を目指す事になります。(Wikipedia参照)
昭和時代のガメラは「良い子の味方」という位置付けで、姿も亀。さらには手足を引っ込めてそこからロケット噴射して飛んいくというトンデモ設定の怪獣でした。
初代のゴジラああまりにも偉大な為に、『シン・ゴジラ』に至っても、その呪縛から逃れられられずにいます。一方、ガメラは「どーでもいい子供向けの怪獣映画」だったので、リメイクに当り以前の作品の縛りはほとんど有りませんでした。
そこでスタッフは「怪獣映画の王道」を作ろうと決意します。
■ リアルな「怪獣映画」を目指した平成ガメラシリーズ ■
「怪獣映画」の魅力は何かと問われれば、それは現実には存在しない巨大な怪獣同士が街を破壊しまくりながら戦う事。敵役の怪獣の魅力如何によっては作品の面白さが全く変わってきます。
平成ガメラシリーズの第一作で敵怪獣として選ばれたのは、1967年のガメラシリーズ第三作で登場した「ギャオス」でした。(ガメラの怪獣で名前がポンと出るのはギャオスとバイラス位でしょう)
ギャオスは翼竜の様な姿をしており夜行性で人を喰います。口からは超音波を発射して物を切断します。
子供向けの映画で「人を喰う怪獣」というのは相当インパクトが有ります。平成ガメラ第一作の『ガメラ 大怪獣空中決戦』は、「人を喰う怪獣」をリアルに描き上げる事で、「本当の怪獣映画とは何か」を追求します。その為にはギャオスの生態は徹底的にリアルに作り上げられ、そしてそれが徐々明らかになる事が物語の進行と見事にリンクします。
<ここからネタバレ全開>
五島列島・姫神島で、島民が「鳥!」という無線を最後に消息を絶つという事件が発生。調査に行った研究者も連絡が取れなくなります。鳥類学者の長峰真弓は、行方不明の先生を探すと共に「謎の鳥」の調査の為に姫神島を訪れます。そこで目にしたのは破壊された家屋と、巨大なペレット。ペレットとは鷹などがエサを食べた後に消化出来ない毛などを口かは吐き出した物です。長峰はビニール手袋を手にハメるとおもむろにペレットに手を突っ込みます。そして彼女が見つけた物は・・・先生の愛用していた万年筆とメガネ。
「この鳥は人を食べます・・・」・・・イヤー、掴みはバッチです。
その後、島の洞窟で巨大な鳥の卵の殻と、ヒナの残骸が見つかります。
「この鳥は共食いします・・・」・・・イヤー、畳み掛けてきますね。
巨大な鳥の正体は不明なれど、人を襲う鳥が本土に上陸する事は阻止しなくてはなりません。しかし政府は恐竜の生き残りかもしれない貴重な生き物を捕獲する方針を固め、その作戦立案を長峰に依頼します。実際に巨大な鳥に遭遇した鳥類学者が彼女しか居ないからです。
島から彼女と行動を共にした長崎県警の大迫警部補と長峰は鳥の捕獲作戦のアイデアを練ります。「あんな巨大な鳥を入れられる様な檻は無いわ・・・」と言う長峰に、「あるじゃないですか、ほら」と示したのは福岡ドーム。
いよいよ鳥を福岡ドームに誘導する作戦が自衛隊の協力で始まります。光を嫌う鳥の性質を利用して、ヘリコプターのサーチライトで鳥を福岡に誘導します。ドームの中は麻酔銃を構えた狙撃隊が待ち受け、グランドの上にはエサとして牛の死体が置かれます。まんまとドームにおびき出された鳥達は麻酔銃で動きを封じられます。
同じ頃、巨大な亀が福岡に上陸してきます。もう街はパニックです。だって巨大な亀が福岡ドームに迫って来るのですが。
亀は何故か「鳥」を狙っている様です。捕獲時に逃げた一羽の鳥を亀は地上に叩き落とします。さらに福岡ドームの鳥に迫ります。危険を察知して目覚めた鳥は、なんと口から超音波を発して檻を切断して逃げようとします。そして亀にも超音波攻撃を加えます。亀の攻撃を逃れた1羽が夜空に消えて行きます。をれを追って亀も・・・なんと手足を引っ込めるとそこからロケット噴射して後を追います。
もう政府も世間も天地がひっくり返った様な大騒ぎです。対策会議が招集されますが、とりあえず巨大な鳥を「ギャオス」、巨大な亀を「ガメラ」と命名し、追跡と攻撃には自衛隊が動員される事が決定されます。
その後、ギャオスは山間部に潜伏し、牛や豚や人を食べて急速に巨大化して行きます。とうとう村が再びギャオスに襲われますが、そこにガメラが空からやって来ます。飛翔して逃げるガメラと飛翔して追うガメラ。その時、自衛隊のミサイルがガメラを捕え、ガメラは海へと落下して行きます。
ガメラの追撃を逃れたギャオスは、潜伏しながらも捕食を続け、ついには東京に飛来します。人口密集地では自衛隊はギャオスに大火器の攻撃は加えられません。東京はギャオスのエサ場と化してしまいます。
攻撃によって真ん中から折れた東京タワーにギャオスが降りたちます。夕日を背景にしたギャオスは東京の終末を象徴するのか・・・。
綿密に構成された伊藤 和典の脚本と、ゴジラシリーズを圧倒するクォリティーの樋口真嗣の特撮は、「怪獣映画」のレベルを遥かに超え「パニックムービー」の傑作の域に達しています。しかし、彼らはあくまでも「怪獣映画」に拘ります。やはり見せ場は「怪獣VS怪獣」なのです。
怪獣映画へのこだわりは、当時のポスターにも表れています。私はこれを電車の吊り広告で観た時は「懐かしい」と思うと同時に、「ゴジラの次はガメラかよ・・」って印象しか受けませんでした。これ、実に勿体ない宣伝ポスターで、下の写真がポスターに使われていたら私は迷わず映画館に走っていたでしょう。
樋口真嗣の映像センスが冴え渡っています。
■ 「良い子の友達」から「地球の守護者」に格上げされたガメラ ■
人食い怪獣ギャオスから東京を救ったガメラですが、ガメラも人間にとっては脅威でしかありません。人口密集地に飛来すれば、着陸するだけで多大な被害をもたらすからです。冒頭の渋谷破壊の映像は樋口真嗣の最高傑作と言うよりも、あらゆる「実写特撮の最高峰」ですが、ガメラとギャオスの戦いに巻き込まれて多くの人々が一瞬で命を落としています。
ガメラがギャオスと戦うのはギャオスが人を喰うからでは無く、ギャオスが増えすぎる地球の生態系を壊すからに他なりません。
古代に高度な文明を築き上げた人達の中から、「人が地球を破壊する」と考える者達が現れます。彼らは、人類を淘汰する為に究極に生物兵器を作り出します。それがギャオスだったのです。単一の染色体しか有さず、単性生殖で無限に増え続け、人を喰いつくす兵器。
それに対抗する為に生み出されたのがガメラです。ガメラは放射性物質から、はたまた地球のマナ(生命力)に至るまでをエネルギー源として、ギャオスやその他の地球の生態系を壊す存在を駆逐する為に生み出されたのです。
■ 日本SF大賞を受賞した本格SF作品の『ガメラ2 レギオン襲来』 ■
『ガメラ2 レギオン襲来』では、生態系の脅威は宇宙からやってきます。
札幌郊外に隕石が落下してから怪現象が起こり始めます。オーロラが出現したり、光ファイバーケーブルが消失したり。
五島列島の姫神島で長峰真弓とギャオスの最初の発見者となった大迫警部補は、恐怖から逃げる様に警察を辞め、北海道でビール工場の夜警の仕事に就いています。ある晩、大迫が軽微に周っていると、彼は巨大な昆虫に遭遇してしまいます。腰を抜かす大迫ですが、昆虫は彼を襲わずに去って行きます。後にはビール瓶だけが消失していましたが・・・。
その後、札幌青少年科学館の研究員の穂波碧は、札幌近郊へ発生する怪現象を調べています。徐々に札幌中心部に移動する怪現象に、彼女は隕石の落下点から地中を何かが移動しているという仮説を立てます。そしてそれが光ファイバーやビール瓶などの「ケイ素化合物」を摂取していると推測します。
彼女の推理は当り、地下鉄が何物かに襲われます。緊急出動した自衛隊は生存者を確保すると同時に、巨大なアリの様な生物と遭遇し、その一匹を殺傷、確保します。この生き物の体はケイ素で出来ており、筋肉は見られずに空気圧で動いています。隕石に乗って飛来した地球外生物だと推測されました。
巨大なアリが札幌の中心部に現れるとすぐに、ビルよりも大きな植物が地中から生えて来ます。それを花の様な物を付けます。穂波碧はその植物が種子を宇宙に打ち上げるのでは無いかと推測し、知り合いのNTT職員に打ち上げ時のエネルギーを計算してもらいます。彼の計算によれば・・・・札幌の中心部はほぼ消失する・・・。巨大アリ達は酸化ケイ素である土を分解して体を作る半導体様のケイ素化合物を作ると同時に分離した酸素を「花」の周囲に蓄えていたのです。「花」はこれを酸化剤に利用して宇宙空間にタネを打ち上げる。アリと花は宇宙規模の共生関係にあったのです。
まさに花は種子を打ち上げんとするその時、空からガメラが飛来します。ガメラは終始の酸素を吸い込むと、プラズマ火球を花めがけて打ち込み、さらには花を根こそぎ引き抜きます。札幌は危機一髪、ガメラに救われたのです。
ところが、地中からワラワラと巨大アリが現れガメラの全身を覆い尽くし攻撃を開始します。ガメラはたまらずに飛翔し回転しながらアリを振り払いますが、ビルのガラスには緑色のガメラの地がベッタリと付いています。その直後、地中から巨大なアリが現れ、南の方角へと飛び去ります。
それを見ていた若い自衛官がつぶやきます。「「主が、『名は何か』とお尋ねになると、それは答えた。『わが名はレギオン。我々は、大勢であるがゆえに』」マルコによる福音書5章9節です。その後巨大アリはレギオンと呼称されます。
自衛隊のミサイルに追撃されたかに見えた巨大アリですが、今度は仙台に巨大な花が出現します。再び現れたガメラですが、巨大アリがガメラの前に立ちはだかります。
仙台市民がほぼ避難し終えた時、花が発射されます。直前で巨大アリに地中に避難しますが、爆炎をまともに浴びたガメラは・・・全身消炭状態のまる焦げ・・・。そのまま活動を停止します。
しかし、ガメラは生きている・・・ガメラと唯一心を通わせる事の出来る少女、草薙浅黄(藤谷文子が演じていますが、彼女はスティーブン・セガールの日本人とに間に出来た娘)
はガメラの復活を信じています。そして、被災した仙台の子供達がガメラの元に集まって来ます。ガメラの復活を信じて。
一方、東京を目指す巨大レギオンを自衛隊は利根川を最終防衛ラインに迎え撃つ作戦を立てます。栃木県内に出没した巨大レギオンに戦車大隊の砲撃が集中しますが、全くダメージを与えられません。ジリジリと後退する自衛隊ですが、まさに壊滅も覚悟したその時、仙台でガメラが復活します。再びレギオンに対峙するガメラですが、無数の小型レギオンがガメラに遅い掛ります。
と、その時、何かに惹かれるかの様に小型レギオンがガメラから進路を逸らします。小型レギオンの生態を調査していた穂波とNTT社員の帯津は、小型レギオンを誘導する方法を発見しうていたのです。
邪魔者が居なくなり、巨大レギオンとガメラの一対一の激闘が開始されます。それまでガメラを敵勢と判断していた自衛隊ですが、ここに至り、ガメラを味方と判断します。「自衛隊の全力を持ってガメラを援護する!!」命令が下されます。
はたしてガメラと自衛隊はレギオンに勝てるのか・・・・。
平成ガメラシリーズで大人に一番受け入れられ易いのは『ガメラ2 レギオン襲来』でしょう。この作品、ハリウッドのSF映画など足元にも及ばない、しっかりとしたハードSF映画です。
ただ、SF設定が複雑なので、科学が得意で無い方は????となってしまう危険性はありますが。
996年第17回日本SF大賞受賞。1997年第28回星雲賞映画演劇部門・メディア部門賞受賞。映画として初めての日本SF大賞受賞となりました。
■ 今度はアニメだ 『ガメラ3 邪神 イリス 覚醒』 ■
『ガメラ3 邪神 イリス 覚醒』の冒頭でガメラはギャオスを駆逐する為に渋谷は壊滅させてしまいます。ガメラにとって人間なんてどうでも良い存在なのです。政府はガメラへの攻撃を決定します。
奈良の山奥の村、東京で両親をガメラに殺された姉弟が親戚の元で暮らしています。村に昔から伝わる封印された祠で姉の比良坂綾奈は大きな卵の様なものを見つけます。そこから生れた生き物を彼女は可愛がります。彼女はその生き物に「イリス」と名付けます。
徐々に成長したイリスは、ある日彼女との融合を図ります。彼女が抱くガメラへの憎しみに反応したのです。この生き物は、ギャオスの突然変異体だったのです。
彼女の恨みに感情に呼応して、村で彼女に辛く当った人達をことごとくエサとしたイリスは徐々に成長しながら、人口密集地を目指します。イリスを察知したガメラですが、イリスと空中で戦闘を開始さいたガメラに対し、自衛隊は攻撃を加えます。
イリスは自衛隊の追撃を振り切り、台風で大荒れの京都に降り立ちます。遅れて飛来したがガメラは着地と同時にプラズマ火球を連射しますが、イリスの触手に弾かれ、京都は火の海と化します。
燃え上がる京都に仁王立ちするガメラとイリスの姿は、日本映画の歴史の重みを映し出しています。
京都駅の中でガメラとイリスの死闘が始まります。ガメラはその戦いの中でイリスに取り込まれた少女を救い出します。
人間との関係を断って地球の守護者である事を選択したガメラですが、その縁をガメラは断ち切れずにいるのです。
そんなガメラを目がけて地球の各地からギャオスの大群が押し寄せて来ます。イリスとの死闘でボロボロになったガメラは、一際大きな咆哮を放つと、毅然とギャオスの大群に向かって行きます。
その時、自衛隊の統合参謀本部では「陸、海、空、全戦力を持ってガメラを援護する」と宣言されます。日本の、いや、地球の運命は如何に・・・・。
ガメラ3は良くも悪くも「エヴァ世代のガメラ」です。ガメラは「生物兵器」として意思を持たない、あるいは人間との交流を拒絶していますが、それでも人を守ってします・・・。もう、アニメのヒーロ以上にカッコいい。
私、この作品を劇場で3回見ました。全体のバランスはガメラ2の方が良いのですが、オタク的に病んだ世界感がエヴァ世代や、私の様な真性オタクにはタマラナイのです。
樋口真嗣の特撮は「神」の領域に達し、後にも先にもこれを超える特撮は現れる事は無いでしょう。(ただ、CGが残念ですが、当時の技術だから仕方無い)
■ ハリウッド版ゴジラは、平成ガメラへのオマージュ ■
「トカゲみたいで不格好」とか「あんなのゴジラじゃない」と日本人には評判が悪いハリウッド版ゴジラですが、監督が目指したのはゴジラでは無く明らかにガメラでした。ゴジラは生態系の守護者であり、子供達を思わず助けてしまう一面を見せています。
■ 『シン・ゴジラ』は「平成ガメラ3部作」の足元にも及ばない ■
初代ゴジラファンやエヴァファンから評価の高い『シン・ゴジラ』ですが、私に言わせれば単なる「ゴジラごっこ」、あるいは「エヴァごっこ」。そしてさらには「政治ごっこ」であり、「原発問題ごっこ」に過ぎない超駄作です。
ゴジラに「SOUL」が無いからです。
初代ゴジラには戦争のトラウマという観客側の「心」が在りました。しかし、「シンゴジラ」は「取って付けた様な原発事故のメタファー」という設定は在りますが、観客に恐怖は在りません。だって、観客はCG映像を楽しみに来ているのですから・・・。
その点、平成ガメラシリーズのガメラには心が在り、葛藤があります。それが人の心とは違うものだとしても、その身を犠牲にし、緑色の血しぶきを上げながら真正面から敵に向かって行くガメラは、何度観ても胸を熱くします。
『七人の侍』あたりを彷彿とさせるヒーロなのです。
本日は50才のオッサンが「ガメラ愛」を熱く語ってみました。
ちなみに新作ガメラのプロジェクトが始動している様です。パイロットムービーの監督は「石井克人」。浅野忠信主演の『鮫肌男と桃尻女』の監督ですね。これ、インパクトの有る映画でした。現代の映画表現を先取りしてました。
映像が公開されていますが、CGのガメラはちょっと微妙・・・。これは劇場には行かなくても・・・。ガメラ、どうしてもデビルマンの人面に見えちゃう・・・。
それよりも「東京国際映画祭」の「日本映画クラシックス」で旧作ガメラが上映される様です。場所はTOHOシネマズ新宿。
『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(昭和ガメラ) 10/24 10:50-
『ガメラ 大怪獣空中決戦』(平成ガメラ1) 10/24 13:50-
『ガメラ2 レギオン襲来』(平成ガメラ2) 10/25 11:30-
『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』(平成がガメラ2)10/25 14:10-
うーん、仕事をサボってしまいそうだ・・・。
最後に平成ガメラの特撮集を