■ 急激な金利上昇を警戒するグレーンスパン元FRB議長 ■
「グリーンスパン氏:米金利は近い将来に上昇へ、恐らく驚くほど急速に」
Bloonberg 2016.089.19
ttps://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-08-18/OC466I6S972V01
Bloombergのグリーンスパン元FRB議長のインタビュー記事は興味深い。
1)米経済が低い経済成長と高いインフレ率を伴うスタグフレーションの局面に向かっている
2)単位労働コストが上がり始め、マネーサプライの伸びが加速し始める中、「その非常に初期の段階に至ったことが明確になりつつある」と指摘した。
3) 「金利は上昇し始めるはずで、そうなった場合は、その速さでわれわれを驚かす可能性がある」
グリーンスパン氏は恐らくあちら側の人ですから、これは予測と言うよりは「予定」と考えるのが陰謀論的解釈。
「アメリカの景気は回復している」「いや、実体経済の成長を弱い」こんなやり取りが何年も繰り返されていますが、現在のアメリカのインフレ率は低く抑えれています。
アメリカは昨年末に利上げを実行していますが、その後の利上げにFRBは慎重です。当初、「2017年内に2回、恐らく6月と2月に利上げするだろう」との予測が主流を占めていたと思われますが、イギリスおブレイクジッとの影響で9月の利上げ実施も危ぶまれています。
■ 悪い金利上昇は、急激な信用収縮の過程で発生する ■
「金利上昇」に対するグリーンスパンの見方は「悪い金利上昇」を示唆しています。景気が悪い中で金利が上昇する場合は、通貨の信用が損なわれるケースが考えられます。
リーマンブラザーズの破綻後に銀行間で短期の資金を融通し合う「短期のコールローン」の市場で金利が急上昇した事が悪い金利上昇の例として思い浮かびます。
「短期のコールローン」とは銀行間は「一晩だけお金を貸してよ」などというごく短期で資金を融通し合う市場です。銀行は預金や自己資金を現金で手元には置いていません。準備預金以外の多くの資金を投資や融資に回しています。ですから手元の現金が短期的に足りない場合は「コールローン」市場で調達して急場をしのぎます。これはどこの銀行もお互い様で、貸す側も「一晩だけ」などという長短期で低リスクな市場で安いながらも金利収益が得られます。
ところが、金融危機などが勃発すると、どの融機関も手元資金を厚くしようとしてドルの貸し出しを渋ります。当然、「短期のコール市場」のドルが枯渇するので金利が跳ね上がる事になります。
この様に「急激な悪い金利上昇」は「急激な信用収縮の初期段階」で発生します。
■ ベースマネーが拡大して金利が低い状態では、マネーサプライは急激に拡大する ■
グリーンスパンの発言の中で興味深いのは「単位労働コストが上がり始め、マネーサプライの伸びが加速し始める」という部分です。
アメリカの雇用統計は中期的には完全失業率に近い数字で安定しています。中間層の雇用改善も進んで来ているので、これからは消費の歯車が徐々に回り出すかも知れません。ある程度の所得が約束されると、住宅や耐久消費財の需要が高まり、アメリカは本格的な消費拡大のフェーズに入ります。
ここで「資金循環」が活性化し出すと「マネーサプライ」が急拡大します。マネーサプライの拡大期はポジティブ・フィードバックが掛りますから資金需要は加速度的に拡大します。ある程度金利が高い場合はフィードバック係数が低く抑えられ、マネーサプライの拡大は適度にコントロールされます。
一方、現在の様に、極端に緩和的で市場に資金が溢れている状態では、マネーサプライの拡大のスピードは速くなります。
■ 債権市場で発生するであろう急激な金利上昇 ■
ここで問題になるのが現在の「あまりにも低すぎる債権金利」です。ジャンク債は元より、社債、国債までもが金利が下がり切っています。
マネーサプライの拡大が急激過ぎる場合、FRBも流石に利上げでこれをコントロールしようとするはずです。ところが、金利が上昇すれば、現在の低金利の債権を大量に保有する金融機関やHFや個人は大きな含み損のリスクに晒されます。
結果的に債権市場で債券が投げ売りされ、ジャンク債市場を筆頭に社債市場も国債市場も急激に金利が上昇します。
■ 拡大し始めたマネーサプライが一転して急激に収縮する ■
急激な金利上昇をFRBがコントロール出来なければ、金利上昇はあらゆる市場を一瞬で崩壊させます。投資家達は損失が膨らむ前に現在のポジションを解消しようと必死になります。パニック(ショック)が発生するのです。
信用収縮が一度始まると後はリーマンショック時同様に「短期のコール市場」が機能しなくなり、多くの金融機関が破綻の危機に晒されます。
リーマンショック以降、金融機関は自己資金を厚くしてショック耐性を高めているとされていますが、イタリアの銀行やドイチェバンクを観る限り、リスクは拡大こそすれ縮小はしていません。ヨーロッパの金融機関が行ったリスク対策は「ベイルイン」ですから、危機が発生した場合は金融機関に投資した人達や預金者が損失を被ります。
日本の金融機関も国内の低金利を背景に海外投資を大幅に拡大していますから、リーマンショック時以上の悪影響を被るはずです。
■ ジョージ・ソロスは9月の利上げに掛けている ■
ジョージ・ソロスは手持ちの金や金ETFの大半を手放し、株は空売りのポジションを積み上げています。今の所、「失敗」に見えますが、彼は「FRBの9月利上げ」に掛けている様です。
ここに来てFRB内部からも「利上げ」の発言が相次ぎ、市場のリスクオンムードが一転し始めています。
■ 米の景気回復の腰は弱いが金利を早めに上げたいFRB ■
三橋教の信者さん達には理解出来ないかも知れませんが、FRBは「金利がある程度の水準にある事が継続的な経済発展には好ましい」と考えています。ゼロ金利やQE(量的緩和)はあくまでも「緊急処置」であって、危機が遠のけば利上げは当然の事です。
これは、FRBが冒頭のグリーンスパンと同じ見識に立っているからです。特に消費好きな米国民の潜在需要は日本に比べれば高く、所得の改善が始まれば、金利上昇の圧力が高まる事をFRBは良く知っているのです。
尤も、アメリカの今後拡大するであろう需要は「偽りに需要」である事には注意が必要です。先進国はどの国も潜在需要が低下していますが、それを打ち消す為に「金融緩和」が実施されています。
様は、アメリカは「低金利バブル」の最後の仇花を開かせるのであって、真の景気回復を迎える訳ではりません。
FRBが利上げのタイミングを逃せば「バブル崩壊」が確実になるのでFRBは利上げを急ぐのです。
■ 大統領選挙が波乱要因 ■
イエレンFRB議長はハト派ですから利上げには慎重です。さらに大統領選の間は、両候補とも国内景気を気にしますから、FRBは利上げには慎重にならざるを得ません。
ここら辺の事情も鑑みて、大方の市場関係者は「9月の利上げは無い」と読んでいますが・・・ジョージ・ソロスやグリーン・スパンなど「あっちの世界の人」の発言や投資行動は利上げを示唆しています。
陰謀論的には「9月利上げは在る」とした方が面白いのですが・・・・はたして・・・。