■ 高橋洋一氏の「「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした~それどころか…」という記事が流行っているらしい ■
元財務官僚の高橋洋一氏の「「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした~それどころか…」という記事が各所で取り上げられています。
要約するとこんな感じでしょうか?
1) 日本政府の負債は1000兆円有るが、資産の額も十分に大きい
2) 現預金19兆円、有価証券129兆円、貸付金138兆円、出資66兆円、計352兆円が
比較的換金可能な金融資産
3) 上記の他に政府の関係会社の試算を合わせると200兆円程度
4) 負債から公的年金預かり金などを抜くと、ネットの国債残高は490兆円程度
5) 日銀の試算の中の国債は328兆円
6) 日銀と政府を統合政府と考えると、国債は相殺されて日本政府の国債発行残高は
150兆円から200兆円程度だろう
とまあ、こんな感じで、読んでいると本当に日本政府の借金が消えてしまう気がしてきます。
■ 現金化し易い政府の試算とは ■
これに関して若干の疑問が生じます
1) 政府保有の有価証券129兆円は、ほとんど米国債で現実的には売却出来ない。
売ったらアメリカが激怒するし、米国債金利が跳ね上がって世界経済がお陀仏。
2) 金融資産の内訳は政策投資銀行(旧日本開発銀行)やUR都市機構(旧住都公団)
などの特殊法人、独立行政法人に対する貸付金、出資金。これらを民営化すれば
現金化が可能。
これも暴論で、民間では採算の取れないが公共性が高い事業が特殊法人では?
これらの特殊法人への政府の貸付を貸し剥がして事業が存続できるとも思えず、
民営化しようにも、株がまともな価格で売れるかも分かりません。
さらに、理化学研究所や宇宙開発事業団の様に国家機密に近い技術を扱う特殊法人は
単純には民営化は難しいのでは?
中には、確かに不要な特殊法人もあるので、これらは事業を止めて資産を売却すれば、
いくらか現金化は可能かとは思いますが。
3) 上記の理由により、現実的に換金可能な国家の資産は352兆円よりは大幅に少い?
ただ、日本が本当に財政破綻した場合は、IMFが乗り込んで来て、優良な資産や事業
から外資にたたき売りされる可能性は否定出来ません。
いずれにしても、高橋氏の主張は、特殊法人一つ一つの役割や、資産価値や、売却した場合の影響などは無視して「天下り先の確保」とレッテル張りするという「印象操作」でしか無い様に感じます。
どうも、元財務官僚という肩書で、世間の方達は高橋氏の言う事を検証もせずに鵜呑みにしすぎでは無いか?
■ 統合政府の借金は相殺できるのか? ■
「日銀保有の国債は、日銀が政府の子会社だから連結ベース相殺される」・・・これは三橋貴明氏も影響を受けた高橋氏の十八番。
これに対して、金融関係者から指摘があります。
1) 日銀の国債保有を支えているのは日銀の当座預金
2) 日銀の当座預金は民間銀行の預金で支えられている
3) 民間銀行の預金は民間銀行の負債であり、国民の資産
4) 連結ベースで国債が相殺されるとするならば、預金という国民の資産はどうなるのか?
これ、分かり易い様で分かり難い説明ですが・・・
1) 国民が預金を引き出す
2) 金融機関は日銀にブタ積みしていた当座預金を減らす
3) 日銀は当座預金の引き出し額に応じて資産である国債を市場で売却する
4) 統合政府のバランスシートから売却された分の国債が外れ、
政府の純粋な負債になる
まあ、実際には、こういう事が景気回復局面で発生する訳です。
■ 異次元緩和の成因は、延々に経済成長しない事 ■
1) 景気回復で日銀当座預金が減り始めたら、日銀は国債やその他の資産を売却する
2) 日銀の国債売却で国債市場の需給関係が崩れ、国債金利の上昇が始まる
3) 景気回復局面では市中金利も上昇しているのでゼロ金利で国債の買い手は居ない
4) 国債金利が上層すると、ゼロ金利やマイナス金利の国債保有で含み損が生じる
5) 地方銀行やゆうちょ銀行、信用金庫など資産に低金利の国債を抱える金融機関で
支払い金利との間に逆ザヤが生じ、経営が一気に悪化する
「経済成長=出口」な訳ですが、新発国債のほぼ全量を日銀が買い取っている現状で「出口」は地獄へ直結しています。
こうならない為にFRBもECBも金融の正常化を模索している訳で、日銀が出口の目標にしている「2%の物価上昇」が実現したら、日本の国債需給は破綻してしまいます。
異次元緩和に突入した時点で、日本は「経済成長しない」、あるいは「経済成長させない」と財務省と日銀は決めたのでしょう。だから、景気回復局面で消費税増税をぶつけて来る。
これが悪い事かと言えば・・・極端な少子高齢化が進む日本では、この方法でしか財政が維持できないと私も考えています。
■ 永遠のフリーランチはあり得ない ■
現在の日本は、ゼロ成長、或いはマイナス成長と引き換えに「財政のフリーランチ」を手に入れています。
しかし常識的に考えれば「永遠のフリーランチ」などは有る訳がありません。もしそれが成立するのなら、「政府通貨による無税国家」が出来上がります。
■ 財政の拡大がインフレを生み難い日本 ■
現在の日本は財政の拡大ペースと、インフレ率の上昇ペースが乖離しています。
1) 財政支出の拡大分の多くが老人福祉に充てられる
2) 老人福祉の拡大に伴い、公共事業などは縮小
3) 年金など老人に支給された資金は最低限の消費の他は預金と投資に向かう
4) 老人の預金は最終的に日銀の当座預金に積み上がり国債金利をゼロ近傍に押し下げる
5) 投資に回った老人の資金は、金融市場を通して海外に流出し日本の景気を刺激出来ない
この様に超高齢化の日本において、政府支出の拡大は必ずしも景気拡大に貢献出来ません。
■ 低金利が民間の投資を抑制する ■
さらに金利が抑制された経済では「低金利の罠」が生じます。(私の造語ですが)
1) 金利が低すぎる水準では銀行の貸し出し金利とリスクのバランスが崩れる
2) 銀行は低すぎる金利では融資出来ないので、資金需要があっても投資は加速しない
3) 何等かの理由で景気拡大が始まるまで「低金利の罠」が循環する
■ 日本の特殊事情がフリーランチが永続すると錯覚させる ■
1) リフレ政策が日本においてインフレ率を上昇させられ無い事が異次元緩和で証明された
2) 短期的にはマネタリーベースを異次元に拡大しても金利上昇の心配は要らない
3) 一方でマネタリーベースは拡大し続けている
4) 拡大したマネタリーベースはダムに溜まった水の様に位置エネルギーを蓄えているが、
実際の力学的な仕事はしていない
現在の日本は、ダムにマネーを満々と貯めている状態。ダムとは政府と日銀の「統合政府」。そして水をせき止めているのが「ゼロ成長」。
仮に「ゼロ成長」という堰が決壊したならば、ダムの水のエネルギーは解放され、それは悪い金利上昇となって日本の経済を襲うはずです。
そうなる前に貯水量を減らしたい所ですが、水位の限界を超えたダムはほんの少しの水漏れからも決壊します。
何等かの方法で水位を減らすとするならば・・・蒸発しか無い。それって米国債購入だったりして、或いは安倍総理の海外でのバラマキ。
本日は高橋洋一氏の人気記事に妄想で対抗してみました。高橋氏にしてみれば相手にするまでも無い素人考えですが・・・。