■ 灰色のサイ ■
リーマンショック前後に流行した「ブラックスワン」という言葉。白鳥は「白い」と思われてい所、オーストラリアで「黒い白鳥=黒鳥」が発見された事になぞらえて、「想像もしていなかったリスクが突然現れる」事を意味します。
サブプライム・ショックはある程度予測可能でしたが、政府が救済すると思われていたリーマンブラザーズの破綻は想定外。それによって市場は一気にパニックに陥りました。
「ブラックスワン」は「予想外の危機」を指す言葉ですが、それに対する言葉として、米国の学者ミシェル・ウッカー氏が2013年1月にダボス世界経済フォーラムで米国の学者ミシェル・ウッカー氏が2013年1月にダボス世界経済フォーラムで提起「灰色のサイ」を提起します。
「灰色のサイ」とは、「見えているのに対処されず放置された危機」の事です。草原で草を食んでいる灰色のサイは体も大きく目立ちますが、普段は温厚な動物です。しかし、サイは一度何かに怒ると突然走り出し手が付けられなくなります。
「灰色のサイ」は当時は理財商品などで強引な拡大を続ける中国経済を指して使われる事が多かった様です。
■ 気づいたら「灰色のサイ」だらけになった市場 ■
リーマンショック後の「狂った様な金融緩和」によって世界経済は崩壊の危機を脱しましたが、未だに継続する「超緩和的金融政策」によって、世界の投資マネーはジャブジャブの状況が続いています。
それらのマネーはあらゆる市場に入り込み、株価や債券金利を適切な水準から乖離させています。この乖離が大きくなる状態を「バブル」と呼びます。
かつてのバブルはある特定の市場に資金が集中する事で拡大し、そして何かの切っ掛けで崩壊しました。ところが、リーマンショック以降の市場は、特定の市場が過熱する事無く、様々な市場で見えないバブルが徐々に進行する事を特徴としています。
「ダウ平均株価が史上最高値を更新」とか「日経平均株価が15年ぶり高値」など、一見景気の良さそうな見出しが新聞を賑わせていますが、あまり話題にならないのがジャンク債市場。破綻リスクが高い故に金利の高いジャンク債ですが、それ故にリスクには敏感で危機を予兆して資金が真っ先に逃げ出します。
市場のカナリアとも言えるジャンク債ですが、トランプ政権誕生前後に金利が上昇した後、金利が低下し続けていました(価格は上昇)。株式市場の上昇にリンクするかの様に、ジャンク債市場にもリスクマネーが大量に流入していたのです。
株式市場もジャンク債市場も、トランプラリー以降はリスクに鈍感になっています。この状況は、草原に灰色のサイが大量に発生した状況と言えます。彼らは今のところ、おとなしく草を食べていて、一見平和な光景です。
■ ジャンク債市場から資金が流出した ■
リスクに敏感ばジャンク債ですが、11月10日にジャンク債の上場投資信託(ETF)から13億ドル(約1470億円)を引き揚げられました。それ以降、ジャンク債の金利が上昇しています。
これに反応したのか11月14日頃にダウ平均株価が下落しますが、こちらは日経平均同様に、その後回復に転じています。
市場のカナリアとも言えるジャンク債市場が何に警戒したのか不明ですが、一説にはサウジアラビア国内の粛清劇に反応したのでは無いかとの憶測もある様です。サウジアラビアのマネーが引き上げられる事を恐れたのでは無いかと・・・。
依然ジャンク債市場からは資金が流出している様ですが、株式市場は若干の変動はある物の、今の所上昇基調で推移しています。
■ ブラックスワンが水面にちょっと顔を出せば、灰色のサイが暴走する? ■
私個人としては世界経済の最大の危機は「中東戦争」だと予想しています。しかし、それは「危機の仕上げ」であって、切っ掛けには成り得ない。
FRB議長の交代も大きなリスクとは成り得ませんし、FRBの12月利上げも市場は充分の織り込んでいます。
中国経済も不安定の内に安定しており、こちらは巨大は灰色のサイですが、黒い白鳥には見えません。
結局の所、現在の世界経済に大量の灰色のサイは居れど、ブラックスワンは見当たらない・・・。これが史上が楽観的になる理由で、ただ、それ故に、危機に敏感なジャンク債市場は何か予感めいた物を感じ取っているのかも知れません。
ちょっとでも黒い頭が水面に見えたら、灰色のサイ達は一斉に暴走し始めるのでしょうが、黒い頭が、いつ、どこから現れるのかは予測が難しい。
今は水流の変化を感じ取っているジャンク債市場の動向に注意が必要・・・程度なのかも知れません。