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映画・演劇のレビュー

三角フラスコ『約束はできない』

2007-04-24 21:10:42 | 演劇
 大雨から河川が増水し、避難のために村のコミュニティーセンターに集まった人々の人間模様を描く。過疎化が進み村には若い人たちはもうほとんど残っていない。たった3組しかいない20代がここに集う。沢北と西山。新しく引っ越してきた江東夫妻。そして、彼らより少し若い南条とその妻。(江東の夫と南条の妻は舞台には出てこないから、登場人物は4人。)

 ドラマの中心となる部分が西山美和の『ゆれる』を思わせる設定。兄弟と幼なじみの女性の物語。西山の弟の失踪が大雨のための事故なのか、それとも沢北の愛人だった男による殺人なのか。西山兄弟は2人とも沢北が好きだった。狭いコミュニティーに於ける人間関係が大雨の一夜の物語の中で綴られる。

 なぜ兄は沢北と話さなくなったのか。前回の大雨の夜、弟はいなくなった。川に流されたのではないか、という疑いもある。西山は、弟の失踪を彼女のせいだと思ったからなのか。彼は自分の彼女への思いを上手く伝えられなかった。もちろん伝えたからといってどうしようもないことなのだが。しかし、そんな自分がもどかしかった。嫉妬もある。嫉みもある。彼は自分の弱さが嫌で、仕事も辞めてしまいひきこもっている。自分が嫌だから人も嫌になる。

 沢北は自分のせいで弟がいなくなったと思っている。自分が付き合っていた男が彼をどうにかしたのではないか、なんて思う気持ちが心にはある。

 不在の弟を巡る物語が根底にある。あの日と同じような大雨の夜。大雨の中で、普段はもう言葉を交わすこともなかった2人が、新しく転居してきた同世代の女を介して少しずつ言葉を交わす。さらには、2人より少し若い世代の青年の視点も絡めながら、この小さな場所で生きるまだ若い2人の揺れる想いが描かれていく。

作、演出の生田恵さんは定点観測で、本質からとても遠い日常会話を通して、彼らの心の闇にほんの少しスポットを当てていく。その微妙でささやかな語り口は、とても優しい。

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