なんだか不思議な映画だ。もっとわかりやすくて単純な映画だと思っていたのに、こんなお話なのに、なんだか単純ではなく複雑なのだ。主人公の女の子は憧れのニューヨークにやってきて、ここで働くことになる。人生の第1歩を踏み出す。出版社のエージェント見習いに採用される。彼女の上司はなんとあのサリンジャーのエージェントだ。彼女の夢は小説家になること。そのために出版関係の仕事を選んだ。夢に向けて邁進する。恋人も同じように作家を夢見て奮闘している。二人でこの大都会ニューヨークで暮らし始める。なんだかありえないような順風満帆ではないか。彼女の積極的で物怖じしない前向きさが眩しい。でも、そんなふうに上手くいくものなのか、となんとなく嘘くさい。
あまりに順調すぎて、こんなの映画でも嘘くさいよ、と思う。しかも、彼女はサリンジャーと友だちになり(というか、電話でやり取りしただけだけど)彼から作家になるように後押しされるのだ。映画のラストで、せっかく手に入れたこの仕事を小説を書くために辞めてしまうのである。みんなから惜しまれて洋々と去っていく。どこまで都合のいい話なんだ、と思う。しかも、実話だし。成功した人の自慢話か、これは、と思うくらいに調子いい。
サリンジャーの代わりにファンレターの返事を書く仕事をしていて、求められる当たり障りのない紋切り型の返事に飽きて、なんと彼に成り代わり、本気の返事を書いてしまい大変なことになる、とかいうような展開がお話のなかに描かれているけど、それだってなんだかうまく乗り切るし、武勇伝にしてしまう勢いなのだ。
映画を見ながら、たとえ実話ベースとはいえ、これはないんじゃないか、と何度となく思わされた。いろんな意味で都合がよすぎる。でも、この映画は明らかに確信犯だ。主人公が登場するたびに衣装を変えていて、(それって、まるで先日見た『ホリック』の柴咲コウ並みの凄さ!あれはファンタジーだけど、これはリアルですのに)そんなかわいい洋服に守られているようで、でも、そこまでして彼女を輝かせるのは、これがアイドル映画だからか、と思わされるほどなのだけど、そんなはずもない。では、これは一体どういうことなのか。
要するに、この映画はひとりの女の子の夢のお話なのだろう。そうとしか言いようがない。そして、これはバカバカしい、と紙一重で、なんだか楽しくなる映画なのだ。だいたいこれは彼女のドラマなのに、そこにファンレターの差出人たちがそれぞれ生きている姿が描かれたり、彼らが彼女の幻想シーンに登場したりもする。なんだかいろんな意味で自由自在な映画なのだ。