膨大な量の小説を量産している小路幸也の新刊だ。この後もいつもの『東京バンドワゴン』の新作が控えている。この『花咲小路』シリーズもこの作品で7作目になるようだ。今回は寫眞館が舞台となる。そこに採用されるためにやってきた新米カメラマンの女の子と、4代目を継いだ若社長のお話。小説は二人が向き合う面接のシーンから始まる。最初はいつものような商店街を舞台にしたほのぼのとした「人情もの」だと思い読み始めたのだけど、なんだかいささか様相が違う。
面接に来てさっそく採用された彼女の奮闘の日々が、ほのかなラブストーリー的な展開も含んで、のんびりほのぼので展開していくはず、という予想を裏切り、なんと、これがまぁ、SFになるのです!ありえない。SFといってもタイムトラベルして90年代の花咲小路にふたりがやってくる、とかいうような(というか、それだけの)展開だ。たわいもないお話で、しかも、お話がダラダラ進む。読んでいてなんだかイライラさせられるほどなのだ。こんな小路幸也はめずらしい。というか、初めてではないか。ストーリーテラーである彼は、何を書かせてもそれなりに面白く読ませるのに、今回はなんだか様子が違う。
火事を巡るお話も仕掛けというほどの謎ではないし、怪盗セイントこと、セイさんも登場する(というか、主要登場人物は彼も含めたたった3人だけだ!)のに、お話はまるで広がらないし、結局はつまらないまま、エンドを迎えた。唖然である。前半はそれなりに読めたのだけど、肝心の事件の真相に迫るはずの後半部分でますます失速するのだ。大量生産でネタ切れを起こしたのか、と心配になるほどだ。どうしてこんな話を書いたのだろうか。だいたいタイムスリップって、なに?っていう感じ。この調子では毎年恒例の次回作『東京バンドワゴン ハロー・グッバイ』も心配だ。