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映画・演劇のレビュー

劇団ひまわり『スーホの白い馬』

2012-08-12 06:17:45 | 演劇
 劇団ひまわり創立60周年記念作品であるこの大作の関西版演出を任されたのは、若手演出家あしだ深雪である。彼女のキャリアや実力のほどは一切知らない。だが、こういう企画に大御所のような大人を持ってくるのは定番であるはずなのに、敢えて若い彼女に任せるという選択肢を選んだこの集団(というか、企業)の姿勢に共感を抱いた。いったいどんなものを見せてくれるのか、興味深々でABCホールに向かう。

 2時間半の大作である。総勢(たぶん)50名に及ぶ(ダブルキャストなので、トータルすると80名になる。きっと!)の子どもから大人までの幅広い年齢層の役者たちが舞台狭しと、入れ替わり立ち替わり現れ消えていく。

 ここには4世代にわたるモンゴルのとある家族の歴史が描かれていく。それをドラマとして見せるのではなく、音楽劇として、歌と踊りで見せていく。チラシには「ミュージカル」と銘打ってあるが、従来のミュージカルのイメージではなく、これは「音楽劇」なのだ。音楽を担当したのはサキタハヂメ。79曲にも及ぶ(らしい)オリジナル曲が全編を彩る。

 そして、芝居は、それらの楽曲をたくさんの人たちが舞台の上で合唱するするシーンが中心になる。これは、特定の誰かを主人公にしたドラマではない。大体、タイトルにある主人公のはずのスーホは前半には登場しないし、キャスト表ではトップにある日向薫も前半の最後に登場まで登場しない。しかも後半では、おばあちゃんとして脇役にまわり、スーホを見守るばかりだ。

 では、誰が主人公なのか、と言われるときっと役名も定かではないこのドラマを彩る多数の人々、としか言いようがない。これは名もない民衆たちのための劇なのである。時代の流れに流されながら、でも、断固として権力に屈しない。それはとりあえずスーホの一族に象徴されるけど、彼らである必要はない。匿名の存在であってもよい。時の権力者は暴力的に自分たちの力を誇示して、理不尽な振る舞いをする。だが、やがて滅びる。

 全編を彩る象徴的で、シンプルな衣装がいい。リアルではない。何よりもまず色のつながりを大切にする。それは血の絆をも示す。そしてそれは、白い馬のデザインにも言える。舞台上には具体的に馬は登場させないのだ。白い布だけで仔馬を表現するという演出がすばらしい。全体の構成が、リアルを目指さないのである。

 草原で生きるモンゴルの人々のドラマを、繰り返される殺戮の歴史のなかで見せていくことを通して、それでも生きる人たちのたくましい姿を浮き彫りにして見せる。こういう群衆劇を創立60周年大作として持ってくるところが、劇団ひまわりのすごさだろう。自分たちの姿勢をちゃんと指し示しながら、それがより効果的に発揮できる企画を、時代に向けてのメッセージとして提示する。ただの記念事業ではないのがいい。

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