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映画・演劇のレビュー

『ソラニン』

2011-01-03 14:58:04 | 映画
 20代の前半。自分が何ものでもなく、これからどう生きていけばいいのかもわからなくて、不安で孤独な時間。だから仲間と寄り添って、いっしょに怖々生きていこうとする。音楽がすべてではない。しかし、音楽があったからひとつになれた。大学を卒業して、2年が経つ。だからみんなもう24歳になる。

 どこにでもあるようなお話である。だから、どこにでもあるような青春映画である。どこにでもいそうな今時の若者たちの群像劇。ありきたりな日常のスケッチ。主人公たちは5人。大学のサークル活動の延長で、今も細々とバンドをしている。音楽で身を立てる、なんていうバカな夢は抱かない。ただ、今も音楽は棄てきれないでしがみついている。ちゃんとした仕事にも就かず、かといって音楽で生きる自信もない。

 主人公の男は、恋人の家に転がり込んで、バイト活動をしながら、彼女に甘えて一緒に暮らしている。彼女は就職してちゃんと働いているから、今は2人でなんとか安定した生活を送れている。バンドの他のメンバーは、ひとりは家業の手伝いをしていて、もうひとりはまだ大学生をしている。女たち2人はちゃんと働いているのに男たちはだらしない。そんな5人のスケッチである。

 大きな転機は2つ。彼女が仕事を辞めてしまうこと。(彼が「いやなら、やめりゃいいよ」とそそのかした)もうひとつは、彼自身が事故死すること。主人公の青年を高良健吾が演じる。その恋人を宮崎あおい。だが、映画の前半で彼は死んでしまう。だから、実質の主人公は彼女の方だ。彼女が、彼の死を通してひとりになり、その後をどう生きるのか、が描かれる。

 なかなか立ち直れない。だが、ある日彼のギターを持ち、彼の作った歌を歌うことにする。歌を通して、初めて弾くギターを通して、彼が求めていたものが何だったのかを知る。この映画は、彼女が、彼の中途半端な生き方の『真実』に触れるまでの物語だ。

 甘い青春映画でしかないかもしれない。だが、ここに描かれる20代前半の子供たちの姿にはリアリティーがある。嘘偽りのない彼らの不安な『今』というものが、しっかりと描かれている。この甘いだけに見える映画の中に今という時代を生き抜いていくための1つの方向が見えてくる気がした。ソラニンという毒に込められた作者の意図はちゃんと伝わる。


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