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映画・演劇のレビュー

飛鳥井千砂『サムシングブルー』

2010-01-23 19:33:12 | その他
 期待したほどにはおもしろくない。この作者は『はるがいったら』1作で自分の持てる力のすべてを出し切ってしまったのかもしれない。それくらいにあの作品は素晴らしかった。ただ、あんなふうな作品はそうそう何作もは書けないだろう。力をセーブして書く、だなんて新人に出来るはずはないし、そんなことは無意味だ。遣り尽くした後に残るのは何だろう。今回の作品はその残滓でしかない。そういう意味では『アシンメトリー』もそうだった。

 とは言っても、今回の作品も悪くはない。それなりのは楽しめる。だが、このどこにでもあるような恋愛話を、そこそこのレベルで仕立て上げることにどれだけの意味があるのだろうか。僕にはわからない。

 いつまでも失恋を引きずる28歳の女性。2年間付き合った男に振られた翌日、高校時代に付き合っていた彼と、同じ時親友だった彼女からの結婚式の招待状が届く。このシチュエーションだけで話を作る。それ自体は問題ない。こんなにも小さなことが彼女にとっては立ち直れないくらいの大事件で、そのことをきちんと描くのなら、それはそれで興味深いものになるかもしれない。

 今と言う時間と、10年前、高校3年の時の体育祭の記憶。2つの時間をつないで、そこから彼女がどう立ち直るかが描かれていく。1章は今の最悪な気分が描かれていく。2章は10年前のこと。そして、その2つを交錯させて、結婚式までが3章で描かれていく。誰の中にもあるありきたりな青春ドラマである。自分たちの黄金時代。それは確かに眩しい。でも、それは他人にはどうでもいいことでしかない。

 こういう独り善がりの小説はもう今の僕には無理みたいだ。子どもの頃ならこういうのに感動出来たかもしれないが、いくらなんでも50歳になってしまった今の僕にはちょっとつらい。青臭さにのめり込めないのだ。20歳前後の頃ならこういう小説って好きだった。歳をとったのだ。仕方がない。だが、それだけではないだろう。懐古的で甘い話だ。その域を出ない。問題はそこにあるのだろう。

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