これもまたキツい話だな、と思いつつ読み始める。病院を舞台にしてそこで働くDI犬,スピカの話。DI犬の存在をこの小説を読んで初めて知った。AAAとかAATなんてものの存在ももちろん知らなかった。医療に携わる介助犬スピカとバディを組む看護師、遙。ふたりが(ひとりと1匹、いや一頭だけど)出会う患者たちのそれぞれのドラマ(2023年から24年まで)がふたりが出会うまでの話(2012年から24年)と交互に描かれていく連作長編。
各エピソードの主人公たちはこの病院に入院している患者である。それぞれが切実な問題を抱えている。そんな彼らとスピカと遙は向き合う。エピソードは交互に語られる。現在スピカと遙が関わっていく患者たちの話はもちろん患者側から描かれる。2012年からの遙が介助犬DIのことを知り、スピカと出会うまでの日々は遙が主人公だ。ラストの2024年、ふたつのエピソードが重なり合う。
ただ第4話からは遙の身近な人の話になる。親友の話。同期の看護師で彼女は若年性アルツハイマーになる。5話は遙の母親の話。遙が主人公になる。母は精神疾患で施設にいる。遙は生まれた時から母親による愛情を受けたことがない。
全編暗くて重い話ばかり。救いがない。ただ唯一の救いはスピカ。彼が寄り添うことでほんの一瞬心が暖かくなる。DI犬って必要がないという気持ちもわからないではないけど、必要性はある。遙という女性が生まれた時から30代の今までの軌跡と彼女が関わる人たちのお話がスピカを介して描かれる。素晴らしい作品だと思うけど、読んでいて辛すぎた。