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映画・演劇のレビュー

『羊飼いと風船』

2021-02-16 21:44:51 | 映画

初期のキアロスタミ(もちろん、『友だちのうちはどこ?』)のような児童映画テイストかと思った。もっとほのぼのとした映画を期待していたから、なんだかシビアすぎて驚く。チベットの草原で暮らす少年たちの生活を追った牧歌的な映画だと勝手に思い込んでいたのだ。タイトルだってこんなだし。

 

でも、とてもいい映画だった。ラストで少年たちが父親から赤い風船を買ってもらえたのもよかった。ラストは甘い終わり方をするのか、と一瞬思わせて、そうじゃないと、ちゃんとひっくり返す。だけど、見終えたときには清々しい気分にさせられる。

 

2人の子どもたちの2つの風船は、いきなりひとつは割れてしまう。もうひとつは手を離れて空に舞い上がる。大空に高く舞い上がる風船を少年たちだけではなく、彼らの家族、さらには周囲の人たちの姿を捉えるラストシーンは印象的だ。風船を見つめる彼らはそれぞれがさまざまな想いを抱き、ここで暮らしている。この先この国はどうなっていくのか、不安だらけだ。だけど、彼らにはどうしようもない。

 

三世代の家族を通して、今のチベットの現実が描かれる。近代化の波はここにも押し寄せる。中国政府の政策に踊らされる。彼らが営んできた平和な日々が様変わりしていく。それは仕方がないことなのか。それでみんなが幸せになれるのならいいのだが、そんなわけはない。冒頭のコンドーム風船の場面から、始まりラストの赤い風船まで。彼らの生活のスケッチを通して見えてくる痛み。それを単純に少年たちの無邪気な様との対比で描くのではない。子どもまでもが親たちの痛みに感づいている。だから、何も言わない。


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