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映画・演劇のレビュー

スイス銀行『昨日、未来に行きまして。』

2014-10-22 22:24:06 | 演劇
 こういう軽いシチュエーションコメディをきちんと楽しませてくれる。無理しないけど、手を抜かない。そのバランス感覚がいい。

 スイス銀行のおふたり(久野麻子、嶋田典子)は、ここに自分たちの独壇場を用意するのではなく、アンサンブルのなかに、自分たちをきちんと嵌め込んで、舞台作品としての完成度を重視する。どこに2人がいるのか、それすらもあまり気にならないし、もちろん、ゲストをことさら強調したりもしない。とても、さりげなくこの小さなお話に貢献する。

 目立たない、という意味では、台本(枡野幸宏)も演出(大村アトム)も自己主張しない。アイデアとしてはかなり面白いから、この話で作品的に大バケすることは可能なのだが、そんな大向こうを狙わない。最後もありきたりなところに帰着する。作品世界はなんだかとてもチマチマしている。わざとそういう貧乏くささをねらっている。だいたいあの嘘くさいタイムマシンがそうだ。どうしてジュースの自動販売機なのか。ありえないほどバカバカしい。でも、そこがこの作品のカラーなのだ。

 タイムマシン・ビジネスの話なのだが、この夢のような機械を持て余してしまう人々の悩ましい状況提示しただけで、100分の芝居は終わってしまう。作り手は、敢えて、こんな「ちまちました話」にしたのだ。未来に行って自分たちのビジネスがなぜか軌道に乗っていないことを知る。だから、なんとかして立て直す(というかこの地点では、まだ、始めてもいないのだが)ために、方策を練る。それだけの話だ。

 いいのか、こんなにもささやかで、と思うほど。でも、そこがいいのだと、思わせる。いや、それでいいのだ、とも思わせるのだ。この世の中、そんなうまい話が転がっているはずもない。こういう夢物語を、現実の中に落とし込んで、よくある話に納めてしまうという手腕は、実に見事で感心した。


 

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