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映画・演劇のレビュー

重松清『みんなのうた』

2014-10-24 23:15:56 | その他
文庫オリジナルとして昨年出版されていた長編。いつものことだが、安心して読めるのが重松作品なのだが、そのぶん新鮮味には欠ける。3浪をして、傷心の女の子が故郷に帰ってくる。都会にあこがれ、3年間。田舎の秀才で、東大目指して、浪人していたのだが、3度も受験に失敗した。さすがにこれ以上、東京で暮らすわけにもいかず、だが、夢もあきらめきれず、実家での4浪目を過ごす1年間を描いた。同じように都会から帰郷してきた同級生(彼女は結婚に破れ、幼い息子を抱えての帰郷だ)と、なぜか、同じ日に、同じ列車に乗り、帰省する。この2人を中心にしての田舎での日々。

ハートウォーミングである。父と母、祖父母に弟。農業をして生計を立てる典型的な田舎の家族。そんな暮らしが嫌で、東京に出て、自分の人生をみつけたいと思った。だが、本当は何をしたいかもわからないし、ただ、やみくもに田舎がいや。それだけ。東大だって、ただ一番有名な大学だから、というだけの理由。何もしたいことがないから、とりあえず東大でも、という感じ。でも、とりあえずにしては目標が高すぎた。自分を過大評価していたのだ。それくらいプライドは高い。だが、そんなプライドはもうズタズタだ。でも、田舎の人たちは優しい。みんなに守られて、まだわがまま言う日々なのだ。でも、この1年間でいろんなことが見えてきた。

この小説を読みながら、特に何も感じなかった。読みやすいから、すぐに読める。口当たりもいいし、なんとなくいい気分にはさせられる。だが、これではルーティンワークでしかない。書かれて(雑誌に連載された)から10年近く出版されてなかったのも、そこが原因ではないか。都会と田舎の対比なんてテーマ、いまさら新味はない。でも、あえてそれを前面に押し出すのならば、それだけの何かが欲しい。家族の絆の大切さなんて言われても、まるで琴線には触れない。ありきたり。もちろん、ありきたりがダメというのではない。

 主人公の彼女を通して、今、再び帰郷してそこでの立ち位置を見つめるとか、そういうのなら、いいけど、そうじゃない。結局もう1年東大目指すのか。夢をあきらめないとか。そうじゃないだろ、と思う。大学に行ってからでも、自分のしたいことを見つけるのはいいだろ、と言うけど、4年も人より遅れるのである。その後ろめたさとか、ちゃらにしていいのか。ここまで回り道して、それでも構わないと言えるだけの覚悟がこの小説からは感じられない。別に4年がダメである、というのではないのだ。4年を大丈夫、と言わせるだけの小説としての説得力が欲しい。

 大学をあきらめる4年年下の弟との話も、中途半端で、彼がなぜ、姉にあきらめるな、というのかも、説得力がない。いろんな意味で甘すぎた。重松清らしくない失敗作。




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