2020年12月刊行の作品である。23年12月に文庫化されたものを読む。440ページに及ぶ長編だ。
学校で虐めに遭って不登校になっていた小学5年生の雪乃。彼女は母と離れて(離婚ではない)夢の田舎暮らしを求めて会社を辞めた父と共に長野の曽祖父母の元に行く。母は仕事があるから東京に残り時間を作ってやって来る。家族はそんな生活を始める。
そこから始まる物語は遅々として進まない。雪乃はいつまで経っても学校に行けないし、父さんはなかなか田舎暮らしに溶け込めない。都会もんは周りから受け入れてもらえない。でも彼は少しずつ自分の居場所を作っていく。父さんは雪乃が再び学校に行けるような環境を作るためにここに来た。ほんとはそれが一番なのだ。だけどそれは一切言わない。それどころか、そんなことおくびにも出さない。自分がここでやりたいことに邁進する。農業をする。畑で新しい農作物を作る。納屋を改造して納屋カフェを作る。親友とふたりで始めたカフェはなかなか軌道には乗らない。だけど周りを巻き込んで少しずつお客さんが集まってくる。雪乃はここで美味しいコーヒーを淹れることが出来るようになる。6年になっても学校には行けないけど、少しずつ自分の居場所を見つけることができるようになる。畑仕事を手伝い、カフェで働く。梅雨入りして、夏が来る。唯一の同学年の友だちである大輝はおせっかいにも幼馴染のクラスメイトたちを連れてくる。雪乃はそれでも学校には行けない。
440ページの小説はすでに400ページを迎えようとしている。これは彼女が学校に行けるようになるまでのお話か、なんて、もう思わない。大事なことはそこではなく、ここで暮らす日々自体にある。学校に行く、行かない、ではない。ゆっくり少しずつ時間をかけて生きる。その先に何があってもいいと思う。先にあるものは見えない。
ラストまで読んでほっとする、わけではない。もちろん読み終えた時の満足感は半端じゃない。雪乃がここで確かに1年間を生きた。その感動に浸りながら、僕たちも彼女のように生きようと思う。それだけでいい。