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映画・演劇のレビュー

突劇金魚『幼虫主人の庭』

2010-07-02 21:51:27 | 演劇
 こんなにもシンプルなのに、ここまで素直に胸に届く芝居は滅多にない。理屈ではなく感覚的な作品なのだが、これを観客に納得させるのはかなり難しいはずなのだ。ふつうの人なら、このストーリーで1本の芝居を作るのはとても怖いはずだ。ストーリーにもっと仕掛けがなくてはとてもじゃないが、1本の作品を支えきれないからだ。しかし、サリngROCKは、この単純さを信じる。この世界観をこのストーリーが支えることは可能だと踏む。そしてここに奇跡の舞台が生まれた。

 90分という上演時間の短さもいい。つまらない説明を一切排除して見せていく。今回描くのは「家族」である。結婚を通して、家族の形についての考察である。知らないもの同士が(もちろん2人が愛し合って、だが)結婚して、いろんなものを抱え込む。そんな中で、お互いのことを理解していく。こんなふうに書くとそのあまりの「ありきたり」さ、に辟易させられるが、この芝居はそんな説明とはまるで違うものだ。「ありきたり」であるはずのものが、新鮮な驚きを見せつけてくれる。理屈ではない、というのはそういうことだ。サリngが見せる世界は、とても狭くて同時に広い。

 新婚家庭の荒れ放題の庭が舞台だ。実家の火事によって両親を失った兄を新婚家庭に引き取る明石くん(河口仁)。自閉症気味の義兄と、その飼い犬を抱えることとなったビワコさん(河上由佳)は、ストレスを感じる。そこに彼女の5人の妹たちがやってきて、姉を守るためにこの家で同居することになる。2人だけの幸せな家庭が、いきなりわけのわからない大家族となる。さらには、庭掃除のためにビワコと彼女の妹たちが大好きな兄もやってきて、そこに、この家の庭に住む幼虫主人(片岡百萬両)が絡んできてと、ドラマはいつもながらのファンタジーの切り口を見せる。

 だが、ここにはいつものような残酷さはない。芝居は、なんだかとてもふっきれたような【あっさり感】がある。ビワコさんの母親はかって幼虫主人と恋人同士で、彼女たちは人と虫の間に生まれた子供たちだった、ということが判明していく、という荒唐無稽な話が展開する。このなんともむちゃくちゃな話がとても素直に胸に届くところが凄い。ありえないことなんか何もない、と素直に思う。

 舞台中央の巨大な繭から、幼虫主人が登場するシーンのインパクト。そのしつこいくらいの繰り返し。やがて同じように繭(というか、蛹なのだが)となる妹たち。開かれた庭の中で、閉じられていく人々との対比。やがてビワコの背中に蝶の羽が。

 本来他人同士である男女が、同じ家で暮らすことを通して家族というものが作られていく。家族とは分かり合う努力を通して作られていくものだ。そこにただある、のではなく、そこに自分たちで作るものだろう。単純すぎるお話がサリngの魔法にかけられて信じられない感動を生む。傑作である。


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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2010-09-20 03:10:06
登場人物のうちの、明石君の兄ですが、彼は自閉症の特徴がある様には見えませんでした。失礼ですが、「自閉症気味」という言葉を、「人付き合いが苦手な人」という誤った意味で使われてはいませんか?
自閉症という言葉が誤解されて広まると、その被害にあう立場にいるため、気になってしまい、コメントしました。
もし間違っていましたら、すみません。
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