料理は戦いだ。そんな感じの小説なのだが、描こうとすることは、「自分に負けないように努力する」というすべてに通用することだ。その普遍性がこの小説を感動的なものとする。スポーツ小説に近い感触だ。日本最高峰のフランス料理コンクールに挑む若きシェフを主人公にしたスポ根。
おいしいものが出てくるはずなのだが、小説なので、見えないし、作るほうなので、食べる描写は少ない。しかも、コンクールなので、審査のための料理なので、やはり戦いとなる。日本を代表するフランス料理人を祖父に持つ主人公が、祖父の残した味を求めて、戦う姿が描かれる。お話自体はベタ。でも、ここには、勝つための戦いではなく、自分が自分であるための戦いが描かれるから、そんな瑣末なことは気にもならない。
恋やあこがれ、夢や現実。そんなものは描かれない。ただ、ただ、料理することだけ。そこは徹底している。登場人物も少ない。いろんなライバルたちが出てきてしのぎを削る、なんていうパターンにはならない。彼女と彼女の働くレストランの同僚。料理長とオーナー。メインはそれくらいか。複雑な人間関係なんかない。コンクールの予選から、本戦まで。日常の業務と並行して練習をこなし、戦う。コンクールで勝つことが目的ではない。それを通して自分を発見する。それまで意識してこなかった偉大な祖父の存在が身近なものとなる。同じ仕事を選んだ。以前は避けてきたのかもしれない。あの滝沢征爾の孫娘という色眼鏡で見られること嫌だった。自分は自分、祖父なんか関係ないと。だが、そうじゃないと、わかる。滝沢征爾は祖父である以前にフランス料理を目指すものの目標なのだ。そんな当たり前のことに気付く。
きっと、TVドラマとかが喜びそうな企画だ。すぐにドラマ化されそうだが、この作品も原作のもつ基本線だけは忘れないでドラマ化して欲しい。