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映画・演劇のレビュー

三浦しをん『ふむふむ』

2011-09-29 22:55:36 | その他
三浦しをんが16人の職業を持つ女性たちに突撃インタビューをする。サブタイトルは『おしえて、お仕事!』。なんかとても軽い読み物という印象を与えるが必ずしもそうではない。まぁ、この軽さがいいのだ。(やはり、軽いことは事実なので)それは確かに事実なのだが、下駄履き感覚でいろんな人に会って話を聞くというスタンスなのに、それがけっこう心に沁みてくるところがみそだ。「女性の職人さん、芸人さんにお話をうかがいたい」と思って始めた連載なのに、すぐ「特別技能を活かした仕事をしている女性」へとターゲットがひろがっていく。そんなアバウトなところが三浦さんのいいところで、そのいいかげんさがこれを最初の予定よりもっと面白いものにした。

ここに登場するのは確かにその道のスペシャリストだが、同時にみんな普通の人たちで、でも、そんな彼女たちの日常を三浦さんが「ふむふむ」と聞くことで、なんかとても新鮮な驚きに出会えられる。彼女たちの当たり前が、こんなにも刺激的なのは、僕らがその仕事のことを何も知らないからなのだ。三浦さんは当然僕らと同じ目線で彼女たちの日々の営みを探訪していく。興味本位ではない。興味津々なのだ。どのエピソードもそれぞれ面白くて、甲乙付けがたいのだが、敢えて僕なりのベストスリーを選ぶと、①位は「現場監督」(亀田真加)、②位は「動物園飼育係」(高橋誠子)③位は「漫画アシスタント」(萩原優子)ということになる。まぁ、個人的な感想でこの順位には深い意味はない。だって土木現場で女性がおっちゃんたちの指示をしているって想像もつかなかったし、動物園で働くためにはどうしたらいいのか、よくわかったし、フリーの漫画家のアシスタントの現状なんかまるで知らなかったから。それだけ。もちろん他のエピソードも、そのどれもがそれぞれの面白さがある。16人の中には観光地のみやげ物屋なんていうのもある。(しかも、ここだけ、2人!)

余談だが、この本を読む直前に長友祐都『日本男児』という本を読んでいる。(最近サッカー選手の本をたくさん読んだけどこのブログでは書かないでいた。小説以外は基本的に書かないというスタンスだからだ。)これも同じようなおもしろさがあった。サッカー選手という職業について、本人が語るという軽い感じの読み物である。だが、この軽さとは、あたりまえのことだが、彼らのやっている仕事の軽重ではない。長友は、誰もが知っているように、日本代表として南アフリカワールドカップを戦い、セリエAのインテルでも活躍している今の日本サッカー界を代表するアスリートだ。しかし、彼とこの『ふむふむ』に登場する16人の間には何の差もない。同じように自分の仕事の誇りを持ち、全力で日々、立ち向かっている。男とか女とかも当然関係ない。誰もが自分のフィールドで、全力で生きている。そんな当たり前のことを改めて感じさせてくれる。

さぁ、僕も自分の仕事に矜持を持って(もちろん、それは自信と責任を持つという意味である)頑張らなければ、と思わされた。そう言う意味でこれらは、とても元気になれる2冊の本なのである。



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