こういう話に弱い。ついつい手に取ってしまう。50代半ばの女性が主人公だ。2人の子供たちも成長し、家を出ている。医者の夫と2人暮らし。何不自由ない生活だ。だが、幸せではない。そんなある日、新聞を読んでいて知り合いの訃報を知る。30年前の夏の日々がよみがえってくる。彼女はその死んでしまった彼の葬儀に参列しようとする。
1976年。7人の男女と共同生活していた日々。ストックホルムの湖畔の白い家。3組のカップルと一人の青年。マリーエは恋人がいるのに、その青年に心ひかれた。あの夏。
30年間会うこともなく過ごした青春の思い出の人。彼の死を知り、居ても立ってもいられなくなる。夫は不機嫌になる。彼女はずっと彼のことを忘れられないでこの30年間自分と過ごしてきたのではないか、と疑う。彼女は葬儀に参列し、彼のもと妻から、あの夏のビデオを受け取る。あの夏いつも重いビデオカメラを皆に向けていた彼は何を撮っていたのか。その後、彼は有名な映画監督となった。だが、本来自分が撮りたかった映画は撮れなかった。各章の最後に幻となった彼の映画第2作の断片が挿入される。そこから見えてくるもの。それがこの小説の隠し味だ。すべてはラストで明かされる。
4章からなるお話自体は、ある種のパターンにはならない。輝いていたあの夏を回想していくためのドラマではない。あくまでも、今の彼女の姿を追うことをベースにする。ところどころに挟まれる記憶の中の風景は断片として描かれるばかりだ。
今の彼女が過ごす3日間、それがこの小説で描かれるすべてだ。葬儀に出て、30年前に暮らした湖畔の家に行き、その思い出の場所で受け取ったビデオを再生する。そこにはあの日の彼らの姿がそのままある。だが、それを見てあの日々を懐かしむのではない。編集されたことによりそのテープには恣意的な彼の思いが秘められてある。だから、それは彼女が知っているあの日々ではない。彼によって作られたものでしかない。さらには、彼の幻の劇映画第2作のラッシュを収録したテープを見ることで、彼の秘められた過去が明らかになる。この展開はあまりにドラマチックで、そこまでの淡々としたドラマの流れにそぐわない。
選ばなかった人生を悔いるというのではない。彼女が選ばなかったのではなく、彼が彼女を選ばなかったのだ。彼女は彼から棄てられた、といっても過言ではない。なぜか。それが最後に明かされることとなる。そこで明かされた彼が人を愛せない理由にはそれほどの意味はない。どちらかと言うと、そんなストーリーに逃げて欲しくはないくらいだ。もっと彼女自身に寄り添う話にして欲しかった。
この小説はもっと彼女の今ある想いに迫る作劇であるべきだった。作者のアニカ・トールは児童文学を書いてきた作家らしい。あまりにお話になり過ぎるのはそのせいか。
夫との関係、2人の子供たちとのこと。そして何よりもまず、今の自分。突然の訃報が封印していたわだかまりを解き放つ。その先には何があるのか。それはわかりやすい謎解きではない。20代の頃感じた想いが30年の歳月の中でどう風化していったのか。その先に残されたものは何なのか。描くべきものはそこにあるはずなのだ。
1976年。7人の男女と共同生活していた日々。ストックホルムの湖畔の白い家。3組のカップルと一人の青年。マリーエは恋人がいるのに、その青年に心ひかれた。あの夏。
30年間会うこともなく過ごした青春の思い出の人。彼の死を知り、居ても立ってもいられなくなる。夫は不機嫌になる。彼女はずっと彼のことを忘れられないでこの30年間自分と過ごしてきたのではないか、と疑う。彼女は葬儀に参列し、彼のもと妻から、あの夏のビデオを受け取る。あの夏いつも重いビデオカメラを皆に向けていた彼は何を撮っていたのか。その後、彼は有名な映画監督となった。だが、本来自分が撮りたかった映画は撮れなかった。各章の最後に幻となった彼の映画第2作の断片が挿入される。そこから見えてくるもの。それがこの小説の隠し味だ。すべてはラストで明かされる。
4章からなるお話自体は、ある種のパターンにはならない。輝いていたあの夏を回想していくためのドラマではない。あくまでも、今の彼女の姿を追うことをベースにする。ところどころに挟まれる記憶の中の風景は断片として描かれるばかりだ。
今の彼女が過ごす3日間、それがこの小説で描かれるすべてだ。葬儀に出て、30年前に暮らした湖畔の家に行き、その思い出の場所で受け取ったビデオを再生する。そこにはあの日の彼らの姿がそのままある。だが、それを見てあの日々を懐かしむのではない。編集されたことによりそのテープには恣意的な彼の思いが秘められてある。だから、それは彼女が知っているあの日々ではない。彼によって作られたものでしかない。さらには、彼の幻の劇映画第2作のラッシュを収録したテープを見ることで、彼の秘められた過去が明らかになる。この展開はあまりにドラマチックで、そこまでの淡々としたドラマの流れにそぐわない。
選ばなかった人生を悔いるというのではない。彼女が選ばなかったのではなく、彼が彼女を選ばなかったのだ。彼女は彼から棄てられた、といっても過言ではない。なぜか。それが最後に明かされることとなる。そこで明かされた彼が人を愛せない理由にはそれほどの意味はない。どちらかと言うと、そんなストーリーに逃げて欲しくはないくらいだ。もっと彼女自身に寄り添う話にして欲しかった。
この小説はもっと彼女の今ある想いに迫る作劇であるべきだった。作者のアニカ・トールは児童文学を書いてきた作家らしい。あまりにお話になり過ぎるのはそのせいか。
夫との関係、2人の子供たちとのこと。そして何よりもまず、今の自分。突然の訃報が封印していたわだかまりを解き放つ。その先には何があるのか。それはわかりやすい謎解きではない。20代の頃感じた想いが30年の歳月の中でどう風化していったのか。その先に残されたものは何なのか。描くべきものはそこにあるはずなのだ。