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映画・演劇のレビュー

『白いリボン』

2011-09-29 22:57:43 | 映画
ミヒャエル・ハネケの新作である。前作『ファニーゲームUSA』にはちょっとがっかりさせられたから、今回は期待が高まる。しかも、モノクロ2時間半の大作である。一昨年のカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞している。世界が絶賛した傑作らしい。まぁ、今頃ハネケを絶賛しても意味がないのだが、それでもワクワクする。

膨らむ期待を殺ぐような、なんともテンションの低い映画だ。さすがハネケである。期待通りには作らない。このモノクロの映像は、古い昔の映画を見ている気分にさせられる。淡々としたタッチで、1913年、北ドイツのとある村に起こった出来事を再現していく。カメラは村人の方に寄りすぎず適度な距離を置く。特定の主人公はいない。ここに登場する村人たちのすべてが等価に描かれていく。

最初は医者が事故に遭う。彼が通る場所に針金が渡してあり、馬がそれに引っかかり転倒する。誰かがやった。だが、誰かはわからない。医者は大けがを負う。次は小作人の妻が死ぬ。火事で納屋が焼ける。地主である男爵の子供が逆さ吊りにされ傷付けられる。医者の家族、小作人の家族、そして、男爵の家族。被害者のそれぞれの家庭の事情が描かれる。全体の語り部は、この村の小学校の先生だ。

それぞれの家族の不安と、連鎖していく事件。犯人は一体誰なのか。わからない。だが、この村の中に犯人はいる。小作人の息子が男爵のキャベツ畑を荒らす。彼は、母親の死は男爵の責任だと憤りそんな行為に及んだ。だが、その後、男爵の子供を傷付けたのは彼ではない。もちろん母親の死も男爵と関係ない。連鎖する事件は同一犯のものではない。ならば、誰が何のためにするのか。わからない。

これはミステリーではない。だから、犯人捜しがお話のメーンにはならない。どんなことが起ころうとも、そこで生きている限り生活は続く。日常は変わらなくある。映画は日常生活のスケッチを描く。だが、不安と恐怖は募る。

 牧師が、悪いことをした自分の子供たちに白いリボンを巻くように言うシーンがある。これがタイトルの由来だ。白いリボンは純粋無垢の象徴だ。腕に巻き付けられる白い布は彼らを抑圧する。やがてこの牧師一家のエピソードがこの映画の中心になる。そして、犯人もそこにいるだろう事が明らかになる。

ミヒャエル・ハネケが描く不条理な出来事は、彼がこれまでも映画でいつものように描いてきたことだ。だから、今回だけが特別なんかじゃない。しかし、今までの彼とは微妙にタッチが違う。これは、まるでハネケの映画ではないような印象を残す。不思議だ。ラストも犯人が明かされるけど、それが衝撃的なのではないし、納得のいく終わらせ方ではない。不気味なままで、何の解決もない。今回もいつもの悪意のようなドラマは健在だ。だが、だが、悪意は子供たちだけではない。だからといって、厳格な牧師が諸悪の根元というわけでもない。その漠然としたところが怖い。


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