芝居自身が大切なのは当然のことなのだが、もしかしたらそれ以上にコロナ対策の方が大変なのではないか、というようなとんでもない状況の中での公演となった。実に5か月振りになるウイングフィールドでの演劇公演である。NGRが満を持して可能な限りの対策を講じて芝居をする。もちろんそれは中途半端な作品ではなく、今だから可能な渾身の力作を放つ。
前半の軽いタッチが、後半、というか、終盤で一転して重くなり、当日パンフにある「現代社会の孤独を描く」というテーマが鮮明になる。6階建ての雑居ビル、最上階は小劇場だった。(ウイングと同じ)火事によって、もうすぐ取り壊しになるここに集まってくる人たち。でも、なぜかエレベーターは稼働しており、1Fの出火元は酷い状況だが、上の階は、それほどではない。でも、今では廃墟となった場所に自由に出入り出来るというのは、ちょっとまずいのではないか。というか、この設定には無理を感じた。だいたいエレベーターが動いていたらあかんのじゃないか、と思うけど。この基本設定に目をつぶって、そのうえで展開していくお話を受け入れ、そこに描かれるこの場所に集う女たちの孤独と向き合っていく。ある種のメルヘンとして、この物語を受け止めたらいい。
見知らぬ人と人とが集う場所の大切さ。小劇場という空間自体がこの芝居のテーマなのだろう。そして、それが終盤このビルの1階で死んだ男のお話になる。たったひとりそこに引きこもり自分と向き合う。個室ビデオという狭い空間にたどりつき、そこから死につながるある男の物語に収斂する。失火からビル全体の火災。多数の人たちの死、そして、この空間自体が失われていく。ここを大切にしてきた人たちの想いが、ひとりの男のせいですべて失われていく。
今、30周年を迎えたNGRは、この場所を巡る物語を今だからこそどうしても上演しておきたかったのだろう。その想いはしっかり伝わってくる。