図書館でウロウロして立ち止まったのが,彼女の本が並ぶスペースだった。5、6冊並ぶ本がいずれも魅力的に見えて、手に取るとやはり面白そう。とりあえず2冊借りることにした。新しい作家との出会いはドキドキする。と、思ったら彼女の本を以前1冊読んでいた。悪くはないけど、あまりピンとは来なかったなぁ、と思い出す。昨年刊行された最新作『内角とわたし』である。あれはイマイチだった。ひとりの女性の中にいる3つの人格の話でコミカルになりそうな題材だけど、そうは描かれない。なんだか収まりの悪い作品だったと記憶している。あれが伊藤朱里だったなんて忘れていた。
さて、今回の作品は2017年の刊行。主人公は南景以子、29歳。職業はフリーライター。元銀行員。10年付き合った男と別れたばかり。雑誌に「お稽古事にわか体験レポート」を連載している。お稽古体験の5つのエピソードからなる短編連作スタイルの長編で、軽い読み物だと思って読み始めたが、そうではなく、かなりヘビーな内容。一応は最初は習い事の話だったが、実は友人たちとの人間関係が中心に描かれる。10年も付き合ってきたのに元カレは一切描かれない。3話から話はお稽古から離れていく。一応ピラティス、声楽は描かれるが、そこに付随してくる友人との話がメインになる。
4話からが本題に突入する。そこでは特別なふたりの友人との付き合いが描かれる。大学のサークルで出会った愛莉と小学生の頃から高校まで一緒だった芹奈。今まで一緒だった愛莉は結婚して福岡に行く。高校時代に離れていき、今は消息も知らなかった芹奈が東京に逃げてきた。(約10年振りに再会した)彼女が家にしばらく居候する。
最後の5話はほとんどホラーだ。愛莉と芹奈が景以子を挟んで向き合うクライマックスは衝撃的ですらある。ふたりの友人が対峙して、対決する。人はひとりで生きることはできない。誰かがいないと生きていけない。だから結婚する。だけど結婚は幸福のパスポート、安心の証明ではない。(結婚式が人生のピーク、あとは余生、なんてことばが飛び交う)友人は一生続くわけでもない。終盤のやり取りには震撼させられた。だから、その後のふたりのやり取りにほっとした。この瞬間、手を取り合っていられること。
秋から始まり、次の秋まで。ラストにエピローグが付く。読み落としそうになった。その前でお話は終わったと思ったから。それは、エンドタイトルの後のもうひとつの追記みたいで、ほんの少し幸せな気分にさせられる。お誕生日おめでとう。