まず、このタイトルが、なんだか、わけわからない。でも、靴と、なんとなくクラゲっぽい水のようなのが、そこから流れ出すビジュアルに心ひかれる。今回の作品のためのポストカードを見たときから、これは、と思ったけど、仕上がった作品自体も期待通りの傑作で、本公演が今から楽しみだ。
A級Missing rink おなじみの「トライアウト」である。試演会をして、その反応をもとに、作品を完成させていくという、いつものパターンだ。本公演は10月にもう決まっている。本作が70分だが、本編は110分くらいになるはずだ。しかも、まったく別の作品になることも、よくある。この作品を下敷きにして、土橋さんは新たな発想で書き下ろしていく。だが、今回はいつも以上に完成度も高く、ラフスケッチという感じはしない。もうこれで完成版だと言われても納得する。
この緊張感はただ事ではない。不穏な空気が流れる。なんでもない商店街の夏祭りの打ち合わせだ。寂れた商店街の活性化を目論んで企画したのだが、あまり反応はよくない。何人かの若手メンバーが集まるだけで、しょぼい。こんなので、うまくいくわけもない。明日が本番だというのに、あまり準備ができているようではない。そんなところから始まる。だが、話が進行してくるうちにこれはただの商店街のお話ではないことに気づく。お話はそこからどんどん横滑りしていく。そこに描かれるのは、世界の終り、か、と思わせる。だが、同時にそれは、なんだか、あまりにつまらない夫婦の諍いでもある。
さびれた商店街の再開発に立ち上がる人々の話なんていうまるでA級の芝居じゃないような人情劇でも見せられるにか、と思わせる設定は、不気味にねじれていく。夫の浮気。被害妄想のイタイ女。わけのわからない宗教にはまり、へんなドリンクを飲む。さらには、橋の向こうの町では、暴動が起きていて、その暴動の火の手はこちら側にも押し寄せてくる。暴徒と化した人々は、大型量販店を襲撃するが、このシャッター通り商店街は素通りしていく。
金属バットを振るシーンから始まる。最後は符合する。以前も同じように金属バットから始まる芝居をしている。あの作品につながるものを感じる。それがさりげない日常の風景から始まるところが、違うのだが。
何かとんでもないことが起きている。現に起きた。だが、そこにリアルを感じることができない。暴動が起きているのに、まるで実感がないのだ。それはネットから始まった。誰かが仕掛けたほんのちょっとしたことが、大きなものになる。しかも、本人の手を離れて、肥大化して、もう止めようがない。芝居は商店街の夏祭り実行委員会事務所の中から一歩も出ない。それだけに、外で何が起きているのか。不安は高まる。