14歳の少女(広瀬すず)のお話である。天涯孤独の身の上になった彼女が、3人の優しいお姉さん(綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆)から声をかけられる。「私たちと一緒に住まない?」と。少女は、(一瞬のためらいの後、)その場で「はい」と答える。自分の身に降りかかった災厄に飲み込まれてしまい、本当は不安で孤独で立っていられないくらいだった、はず。でも、けなげに少女は泣くこともせず、父の葬儀に立ち会う。周囲の人たちは可哀そうな彼女に、たぶん優しい。でも、ここはもう自分の場所ではない。ひとりぼっち。
今まで会ったこともない、自分の姉たち。父が生きていれば、きっと一生会うこともなかっただろう。血のつながった家族がいること。そのことが、どれだけ力強いことか。その瞬間まで気づくこともなかったはずだ。だから、何の考えもなく素直に「はい」と言えた。
鎌倉の古い家。そこで暮らす3姉妹と、彼女たちの妹になった、父の残した腹違いの少女。映画は1年の歳月の中で、ゆっくりと彼女たちがほんとうの家族になってきく姿を丁寧に描く。
この映画には、これといった事件は何もない。こんなにも、何もなくていいのか、と思うほどだ。もちろん、日々にはいろんな出来事は生じる。そのひとつひとつを丁寧に掬い取る。だが、それをへんにドラマチックには描かないのだ。鎌倉の美しい四季を通して、何の変哲もない、何もない毎日が愛おしい時間として描かれていく。みんながお世話になっていた近所の定食屋のおばさん(風吹ジュン)が死ぬ。祖母の法事に北海道から、母親(大竹しのぶ)がやってくる。ドラマとなる出来事は散見する。でも、それをそれ以外の日常の日々の中に埋没させるように静かに描くのだ。
映画を見ながら、どうしてこんなにも、心が落ち着くのだろうか、と思った。ここには幸せがある。家があり、家族がいて、仕事があり、たくさんの人たちに囲まれて生きている。自分と周囲の世界が調和をとって存在していることの幸福。だから、すずはここで自分の居場所をみつける。ここにいていいんだ、と信じられる。ラストシーンがすばらしい。海岸で4人が戯れる。四姉妹がいる。その当たり前にことにこんなにも胸が締め付けられる。彼女たちと一緒に、この幸せを噛みしめる。ただそれだけなのに、生きていてよかった、としみじみと思う。
是枝裕和監督は、昨年の『そして父になる』に続いて、今回も、幼い子供がほんとうの家族になる、というお話を描く。思い返せば、『誰も知らない』の時から一貫して、彼は、壊れた家族の問題を(その修復を)描いてきた。これはそんな彼の到達点を示す傑作である。