これは面白い。白石一文なのに今回も前回に引き続き短い。186ページである。しかも32章仕立てだから、各章5、6ページくらいのボリューム。どんどん話が進む。
まさかの展開が平然と描かれる。人口が爆発的に増えて出産制限が法制化された世界。昔の中国のように。持てる子どもはひとりだけ。(ひとりっ子政策だ)外国からの移民が50%を超えて、アンドロイドがさまざまな分野で仕事を受け持つようになったそんな時代。
ある夫婦の物語。子どもを産み育てたいけど、出来ない。そこから夫婦関係が壊れていく。他の人との間に子どもを作り離婚することになる。裏切られた伴侶は代替伴侶を申請できる。人型アンドロイドは精巧で人間とまるで変わらない。しかももう裏切らない。ただし10年しか生きられない。自分がアンドロイドであることは知らないまま10年配偶者と共に幸せに生きる。これは夢のような世界なのか。それともディストピアか。
彼らはふたりともアンドロイドであり、お互いがお互いを代替伴侶であるということを知らない。(たとえ知ったとしても記憶できないシステムになっている)そんなふたりの期間限定の人生。10年で終わることを認知した中で暮らす日々。それが凄いスピードで描かれるのだ。読みながらページを捲る手がなぜか加速していく。
そしてこれは代替伴侶夫婦の話ではなく、実際には離婚したふたりの話である。彼らが子どもを得て、別々の伴侶と過ごした第2の人生の先に何を得たのか、が描かれる。さらには彼らがもう一度本当の人生を歩んでいくまで。
こんな短い小説なのに、こんなにもあらゆることがしっかり描かれた。ゆとりと隼人の恋愛は愛の本質を射抜く。期間限定の人生は何が大切なのかを明確にする。
ここからは余談だが、来週65歳になる。ドキドキしている。なんと高齢者マークをもらえるのである。自分で決めた人生は80年の予定である。僕も期間限定の人生でいいと思っている。だから後15年。なんだか、楽しみだ。昨日大好きだった谷川俊太郎が92歳で亡くなられた。最後まで谷川俊太郎として生きた彼に合掌。