Eバーガーの「春のキッズセット」、その5つのおまけをタイトルに冠した5話からなる短編連作だ。前作でさすがにネタが尽きたと思わせたこのシリーズ最新刊である。タイトル通り今回は後日譚。そして新しいスタート。3人目の主人公である新人のエピソードから始めたが、そのあとはこれまでの2話の主人公たちのお話、さらにはふたりの周囲の人物を主人公としたお話も交えての5つのエピソードが綴られていく豪華な別巻仕立て。ファーストシーズンの優芽ちゃんやセカンドシーズンの詩織ちゃんの登場するエピソードはあるけど、ふたりを主人公にはしない。相変わらずの恋バナだが、楽しい。
高校生のアルバイト。そこでの人間模様を女子高生の視点から描いていくこのシリーズの魅力は学園生活のスケッチではなくバイト先を通して垣間見える高校時代という視点の新しさだろう。だからこれはお仕事小説なのだ。
高校生になってクラブ活動に熱くなるという漫画や小説はたくさんあるけど、バイトを通して規則正しい高校生活をエンジョイするなんて言う感じの展開の小説は(ありそうで)なかったはずだ。誰もそんなところからお話を綴ろうとは思わないからだ。でも、それをこのシリーズは堂々とやってきた。大学生や大人に混じって、まだ高校1年生になったばかりの女の子が仕事に向き合う。それが有意義なキャンパスライフを彩ることにもなる。バイトが生活の一部になることで高校生活も活気づく。
今回今までは脇役だった大学生たちを中心とする登場人物がそれぞれの想いを語ることになる。高校生活2年目になる優芽たちの姿は後景に沈むが、彼女たちが毎日充実した日々を過ごしていることはちゃんと伝わってくるから大丈夫。ストーリーで見せていくのではなく、たわいない恋心の推移も含めた日常のスケッチのなかで、この場所にいてもいい、という安心が綴られていくのだ。学校と家庭、そしてEバーガー。ちゃんと自分の居場所があることの幸福。これは見事な番外編であり完結編となった。「おまけ」のほうは楽しみだったグリコのような小説。