習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『キッチン』

2010-06-04 23:09:35 | 映画
 こんなタイトルだが、原作は吉本ばななではない。間違えないようにサブタイトルとして、『3人のレシピ』とある。このサブタイトル通りにこれは3人の男女のお話だ。とても清潔でおしゃれな映画である。ここに描かれる清冽で透明感溢れる空気は、気持ちがいい。その結果、映画の中で描かれる三角関係もドロドロしたものではなく、なんだかとてもサラサラしていて、きれいなのだ。なのに、それってリアリティーを欠くというのではない。なんだか不思議な感覚の映画である。

 とても幸せそうに見える恋人たちのところに、一人の男がやってくる。彼は男の仕事上のパートナーで、彼を同居させることから生じるドラマがこの映画では描かれていく。微妙な三人の関係は、しかも、偶然、彼女がそのやってきた男と数日前に出会っていて、そのとき出会った瞬間にあやまちを犯してしまったという前ふりがある。なんともドロドロの話である。それをあっさりとしたタッチで少女漫画のように見せる。

 幸せだったはすの日々が、自分たちの愚かな行為によって、簡単に壊れていく。ここに出てくる男女は三人ともだめじゃないかと思う。バカな女とバカな男たち。でも、先にも書いた通りそれがとてもきれいな風景(彼らが住む部屋のインテリア、そして、彼らが作る食事等も含めて)の中で描かれていくことで、映画は不思議なリアリティーを持つこととなった。きれい事にしか見えないこの映画が、何とも言えないキラキラした輝きを放つのである。この映画の凄さはそこに尽きる。なぜこんなにも優しい陽射しなのだろうか。それだけでこの映画の諸々のことすら許せてしまうのだ。それだけではない。ゆったり流れる時間のなかでまどろんでしまう。ストーリーなんかどうでもいい。この優しさの包まれてぼんやりしていたい。そんな気分になる。

 監督は新人女性監督、ホン・ジヨン。『アンティーク/西洋骨董洋菓子店』のチュ・ジフンが、幸せな2人のもとにやってくるミステリアスなシェフ役で主演している。


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