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映画・演劇のレビュー

『源氏物語 千年の謎』

2011-12-15 23:28:34 | 映画
 これもまた、酷い映画だ。『ワイルド7』同様期待の大作だったのに、これはあんまりではないか。正攻法で『源氏物語』を映画化するのは困難を極めることはわかる。だが、絡め手であっても、もう少しちゃんとした仕掛けを作って欲しい。中途半端はタチが悪い。

 鶴橋康夫が『源氏物語』に挑む、という大事件のはずが、出来上がったものは、目を覆いたくなるようなぶざまな映画だ。主人公であるはずの紫式部(中谷美紀)と藤原道長(東山紀之)の関係に焦点を絞らなくては映画にはならないのだが、どうしても劇中劇でしかないはずの光源氏(生田斗真)の話を中心にして話を進めていかざるを得ないから、中途半端になる。しかもそれならばこれは原作を紫式部とクレジットしなければなるまい。原作の絵解きに終始するのでは、式部と道長の話はただの導入でしかない。こういう視点のブレが映画全体の出来に関わるのだ。窪塚洋介演じる陰陽師、安倍清明が出てきて、葵上に祟ろうとする六条御息所と対決するなんていうとんでもない展開も含め、荒唐無稽に徹するのならそれはそれでいいのだが、結構なんか本気っぽくて、これでは笑うしかない。本の中の世界と、現実の世界の境界線がなくなるという発想は面白いのだが、それがどんな意味を持つのかが明確にされない。これでは徒に混乱を招くばかりだ。ドラマとしての整合性もない。

 大体、源氏と道長をオーバーラップさせるなんてなんの仕掛けでもない。誰でも知っていることだ。もっと大胆な解釈が為されなければ誰も驚かないし、意味もない。原作をなぞっただけの絵巻物でしかないから、だんだん退屈してくる。いくら絢爛豪華であろうとも肝心のお話自体がつまらなければ(当たり前のことだが、紫式部の原作自体はおもしろい)無意味だ。せめて、原作を忠実に映画化するくらいのことが出来たらいいのだが、その気もない。重たい衣装を身につけて役者たちは頑張っているのだが、ここまで映画が弾まないのでは、為す術もない。

 こんなことを言っても詮無いことだが、昔、向田邦子脚本、沢田研二主演のTVドラマ『源氏物語』という作品があった。あれはすばらしかった。向田さんは正攻法で、この題材に挑んでいた。反対にオリジナルの視点を前面に出して杉井ギサブロー監督がアニメ化した『源氏物語』も、たった100分に凝縮させて、源氏の母恋物として見事原作を料理できていた。なぜ、鶴橋康夫ほどの才人がこんなつまらない映画しか作れなかったのか。考えられないことだ。彼がTV界で成し遂げてきた偉業を思い返すと、その落差には唖然とするしかない。原作を完膚無きまでに解体し、再構成するだけの覚悟が欲しかった。これでは発想も含めて、早坂暁脚本、吉永小百合、天海祐希主演のとんでもない映画『源氏物語』(『千年の恋 ひかる源氏物語』なんていう凄いタイトルだった)と同じではないか。




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