習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『海炭市叙景』

2011-12-17 22:31:20 | 映画
5話からなるオムニバス・スタイルだ。そうとは知らなかったから、最初のエピソードが終わったところで(30分程)メインタイトルが出たので驚く。しかも、その後、別の話になり、兄を待ち、駅の待ち合いでたたずむ谷村美月の姿を置き去りにしたまま、映画は別の話になる。2つ目の話が始まってしばらくしても、オムニバスとは気付かなかった。僕はこの後、谷村美月がいつ出てくるのか、あの後どうなるのか、そればかりが気になっていた。まぁ、いくら鈍感な僕でも10分くらい経つと、これはオムニバスなのだ、と気付く。そして、谷村美月の話はあれで終わったのだ、と思う。

 だが、2009年12月から正月にかけての5つのエピソードは、ばらばらなままでは終わらない。最後にきちんとすべてが交錯する。だから、ちゃんと谷村美月の話の続きはある。ひとつひとつの話が、それぞれとても淡いので、えっ、これでおしまいなの、と思わず突っ込みたくなるほどだ。何も終わってないじゃないか、と思う。もちろんたった30分くらいで何かが見えてきたり、終わったりはしない。とは言えこの短いエピソードの濃度はとてつもない。こんなに濃密なドラマにはなかなか出会えまい。ほんの少しの描写も見逃せない。そこにはたくさんのメッセージが詰まっている。

 映画は海炭市(架空の町だ)で生きるひとびとの丹念なスケッチを綴る。この町の主幹産業である造船業は不況により低迷し、海炭ドッグが縮小させる。それにより、大幅な人員削減がなされ、たくさんの人たちの仕事が奪われた。2人暮らしの兄と妹(これが谷村美月ね)の話からスタートして、市の職員から立ち退きを迫られるひとり暮らしの老女、家族がバラバラになっていくプラネタリウムで働く中年男、仕事が上手くいかないガス工事業者の若社長、老いた路面電車の運転手とこの町を出ていったその息子の話、と続く。

 寂れていく町で心が死んでいくしかない運命の男女のドラマが、冬の重い空の下で、語られていく。見ていて暗澹たる気分になる。だが、それでも年は明け、新しい1年が始まる。何も解決しないし、どちらかというと、状況はどんどん悪くなっていくばかりだ。だけれども、人は生きていく。自殺してしまった兄と取り残された妹の話からスタートしたこの2時間半の大作のラストは、それでも希望に満ちている。  

 PS 
  「海淡市は函館市なんです」と極東退屈道場の林さんから、教えてもらった。映画を見ながら、これは函館だな、とは分かっていたけど、敢えて函館である、とは明言していないから、そのことには本文では触れなかった。僕はよくはわからないのだが、「函館市」は別名「海淡市」とも呼ぶのだろうか。そんなこと、調べればわかることだが、敢えて調べない。

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1 コメント

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Unknown (林慎一郎)
2012-01-01 08:17:20
海炭市は函館のことなんです。
原作者の佐藤ひろしさんも函館です。
と、ここまで書くとあの芝居を思い出していただけるとおもいます。
はずかしながら知らずに書いたのですが、リンクしました。
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