昨年は大長編力作『らんたん』で気を吐いた柚木麻子の最新作だ。今回も凄い。短編集なのだけど、容赦ない。菊池寛大先生を主人公にした1作目から7編。この本の版元である文藝春秋を舞台にして、やりたい放題。「いいのか、こんなことを書いても、」と恐れおののくほど。(いや、冗談ですが)
かつての自分(柚木麻子ですよ、僕ではない!)をモデルにしたような新人小説家が、文藝春秋の担当編集者に虐められるところから始まる。そこに銅像になった菊池先生(社屋のロビーに飾られている)がやってきて(それって、彼女にだけ聞こえる声で話しかける、だけなのだけど。だから幻聴なのかもね)彼女にあれこれアドバイスをする。「自信を持てよ」とか、「好きなように小説を書け」とかいうような心優しいアドバイスなのだけど、この軽薄な男(菊池寛!)にそれを言われると、なんだかどうでもいいくらいに「信じていいかぁ、」と思える。
2作目の『渚ホテルで会いましょう』の渡辺淳一のような作家の話も楽しい。いいのか、こんなふうに書いて、と不安になるほど、大胆。
『勇者タケルと魔法の國のプリンセス』(女性車両に入ってくるオヤジの話)、『エルゴと不倫鮨』(不倫のためのセレブ寿司屋)、『立ってる者は舅でも使え』(離婚する夫の父がやってくる話)や『あしみじおじさん』(あしながおじさんを探す話)と、もうやりたい放題。最後の『アパート一階はカフェー』(女性限定アパートの話)まで一貫している。くだらない男たちの生態も描かれるけど、そんなことよりここに登場する女性たちが素晴らしい。
そして、菊池寛。このとんでもないオヤジ。でも、なぜだかチャーミング。こんな生き方もありなのか、と思わされる。芥川や太宰のような男が、好かれるけど、ほんとうは菊池先生だね、と思う。