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映画・演劇のレビュー

『オンディーヌ 海辺の恋人』

2013-04-06 21:11:35 | 映画
ニール・ジョーダン監督の新作がようやくDVDでだが公開された。2009年作品だから、厳密には新作とは言えないが、(この作品の後にも新作を撮っているし)最近は彼の映画が日本で劇場公開されていないのだから、DVDリリースでも、とても嬉しい。表面的にはメルヘンチックなラブストーリーという体裁を取るが、もちろんただ甘いだけの映画ではない。アイルランドの海辺の町を舞台にして、人生に疲れた男(コリン・ファレル)の日常を淡々と綴る。とはいえ、冒頭から人魚もどきの女が登場し、日常ではなく、非日常の世界に突入するのだが、それでも、彼は動じないで、淡々と過ごすのだ。そんな彼の生活に突然現れたその人魚女の存在が、少しずつ彼と彼の生活を変えていくことになる。突拍子もない始まりだが、これは浮ついた、浮かれたような映画ではない。

 漁師が、網にかかった女を助ける。家に連れ帰り、一緒に暮らすことになる、なんていう日本昔話のような話だ。彼女は人魚か、と思わせて、もちろん、そんなわけはなく、ちゃんと裏があるのだ。しかも、結構シリアスでシビアな現実がふたりを待ちうける。(ただ、あのオチはちょっとなぁ、とも思う)

 『フライト』からこっち、アルコール中毒の男というのが、「訳あり男もの」の定番になっている。この1カ月の間で何本そういう映画を見ただろうか。だからなのかもしれないが、最近やけに多いこの設定が、ここでもちゃんと踏襲されてある。

 離婚して、子どもと引き離されて暮らす。でも、別れた妻は他の男(これがつまらない男)と、近所に住んでいて、親権は失ったが、実際は娘の世話は彼がしている。(それって、なんだ?) 病院(娘は、足が不自由で、車椅子生活を余儀なくされている)に連れて行き、学校にも連れていくし、なんだかとても頑張っている。お酒も、もう3年ほど止めている。

 この娘がとてもかわいい。彼女を見ているだけで幸せな気分になれる。愛らしいとかではなく、(もちろん、確かに愛らしい。でも、それ以上にまず綺麗で、美人なのだ。子供らしさ、ではなく女性としていい。そんなこと言うとロリコンか、と言われそうだが、決してそうではない。)とても聡明で、現実をちゃんとみつめているその視線が素敵なのだ。父親に向けるまなざし。母親とその男への醒めた視線。人魚のような彼女の存在も結構冷静に捉えるのだ。

 こんなお話なのに、甘くはならないのはこの女の子の存在が大きい。もちろん、映画自身もクールなタッチで貫かれている。特別な映画だ、とは言わないけど、なんだかちょっといい気持にさせてくれる小佳作だ。

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