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映画・演劇のレビュー

大島真寿美『かなしみの場所』『虹色天気雨』 他2冊

2012-05-05 20:36:15 | その他
 大島真寿美の『かなしみの場所』『虹色天気雨』を読んだ。どちらもタイトルがとてもいいので読むことにした。というより先日、大島真寿美の新作『ピエタ』を読んで、今まで読んでいなかった彼女の旧作を遡ることにしたからだ。『虹色天気雨』はまるで柴崎友香の小説を読んでいるような気分。おしゃべりを中心にした日常生活のスケッチである。柴崎友香はいつもこんな感じでまるで話らしい話しもなくだらだら流れていくのだが、大島真寿美の本作は彼女ほどではない。少しはストーリーがある。

 主人公の市子は、幼なじみの奈津の子供である美月ちゃんを預かることになる。彼女は夫が失踪したから捜しに行くというのだ。お話はこの事件から始まり奈津の夫の失踪の謎をとく、というのではなく、そこを起点にした日常のスケッチに終始する。柴崎友香ならこの前提となる話すら、すっ飛ばす。別になくてもいいくらいにさりげない。市子と奈津を中心にして彼女たちの周囲の人々との関わりが淡々としたタッチで描かれていき、最後は夫の話なんかどうでもよくなる。美月の運動会にみんなでいくシーンがクライマックスになる。これはちょっとした群像劇だ。30代なかばの女たちの姿が生き生きと描かれてなんだか元気になれる。

 そういう意味では『かなしみの場所』も同じかもしれない。こちらも同じ年頃の女性が主人公だ。離婚して実家に戻っている果那。こまごまとした雑貨を作ることを仕事にしている。マレーシアに半年間移住した伯母さんの家を預かり、そこで暮らすことになる。彼女は、昔、子供の頃、誘拐されたことがある。そのことが今もトラウマとなっている。離婚の原因もそれがきっかけだ。これはその誘拐事件の秘密と出会う話だ。なんだか角田光代の『八日目の蝉』じゃないか、と思う。なんと帯で角田光代が推薦文を書いていた。「その圧倒的な静けさで、永遠とリンクする今の美しさを見せてくれる」と書いている。確かに。だが、誘拐は彼女の今を蹂躙しない。子供の頃のことだし、それは美しい思い出でもある。忘れていたあの出来事をたどることで、記憶の彼方にいた叔父さんと再会する。ちょっとした事件を核にして、今を生きる女たちの姿を生き生きと描いてみせる。

 このほかにも、今週はあと2冊読んだ。久々となる梨屋アリエの『雲のはしご』。小学校にある「雲てい」を舞台にした話だ。小6の優由と実月の友情物語。家の事情で塾にいけなくなった優由は、中学受験も断念し、実月とも離れていく。実月は優由がなぜ冷たくなったのか、わからない。親友だったのに、とてもさみしい。そんな2人の気持ちを、交互に描きながら、いつものように丁寧に見せていく。とても気持ちのいい児童書。

 円城塔の『道化師の蝶』も読んだが、これは嫌い。今年の芥川賞受賞作品。彼のデビュー作『オブ・ザ・ベースボール』は出版されてすぐに読んだが、あれも乗れなかった。彼の作品をひさびさに読んで、また同じだ、とがっかりした。発想は面白いのだが、それだけ。こういう薀蓄を述べるようなのは嫌い。理屈っぽくて、つまらない。多言語作家、友部友幸と資産家、AAエイブラハムによる言語を巡る物語。続編のような話である併録された『松ノ枝の記』も同じパターン。2人の作家がお互いの作品を翻訳する話。実態は隠蔽され、それを探る。相手と自分の境界線も定かではない。実体のない相手、自分。頭の中でこねくり回したようなもので、僕はこれには乗れない。面倒くさい小説だ。



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