ずっと気になっていた映画をようやく見た。予想通りの作品で、こんなにも静かな映画なのに3時間ずっと緊張が途切れない。ひとりの少年の地獄巡りの旅が描かれる。たまたまだが、夜明け前の3時半から見始めて朝の6時半に見終えた。
映画は、少年が母親と離れて、親戚のおばさんの家に預けられるところから始まる。舞台となるのは東欧のどこか、か。ホロコーストを逃れて疎開した彼が主人公だ。この少年のたどる数奇な運命のドラマが淡々としたタッチで綴られていく。ある日、目覚めるとおばさんが死んでいた。驚いて倒した火が燃え移り家は全焼してしまう。彼は身寄りも、住む場所も失う。その後、彼はさまざまな場所、いろんな人たちのお世話になりながら、旅を続けることになる。だが、そこで体験する出来事は残酷で、おぞましい。
モノクロ、シネマスコープの映画には、寒々とした映像が綴られていく。寡黙で、静かな映画だ。ほとんどセリフもない。音楽もない。少年と彼が関わる人たちとの短いドラマは父親との再会まで9章からなる。この旅を通して無表情の少年はさらに心もなくしていく。それぞれのエピソードのなかで描かれるドラマは想像を絶する。あまりのことに観客である僕はそこから目をそむけたくなる。だが、少年は目をそらさない。彼は逃げない。逃げ場もないし。
ある種の寓話のようなお話なのだが、描写は実にリアルだ。戦争の痛みとかいうようなよくある感想を抱くのではなく、見たくもないものを見てしまったという嫌な思いが残る。だが、ここから目をそむけるわけにはいかない、という気にもなる。これは圧倒的な映像体験なのだ。少年の後を付き従い、この3時間に及ぶ旅を終えた時、明るい陽ざしがうれしかった。