ウェス・アンダーソン監督の最新作だ。なんとこれが10本目の記念作品になる。めでたい。毎回彼が何をしてくれるのか興味津々で楽しみだった。そして今回はなんと映画なのに、「雑誌」を作るというまさかの映画に挑戦する。映画で作る雑誌っていったいなんだ、想像もつかない。
そして、出来上がった映画は期待通りの作品である。楽しくて、不思議で、驚きと、興奮の107分間だ。雑誌のページをめくるようにして、映画は展開していく。どんな記事がそこにはあるのか、そのひとつひとつがびっくりするような仕掛けで溢れている。豪華キャストの競演も素敵だ。映画のタイトルは『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」。長すぎて覚えられないので、『フレンチ・ディスパッチ』ということで。
編集長の死から始まる。だから、雑誌を閉刊することに、というとんでもない展開に。(そんな個人的なことで雑誌が終わるなんて!)そして最終号が刊行されることになる。なんと、この映画はその雑誌の中身。雑誌の巻頭を飾る編集長の死を描く記事(部分)から始まるオムニバス形式だ。雑誌の巻頭から、4つの記事、そして、編集後記に至るまで、さらにはおまけでこれまでのバックナンバー表紙の紹介(エンド・クレジット)までと盛りだくさん。ひとつひとつのお話が驚きの展開、ビスタ、シネスコ、カラー、モノクロ(基本はモノクロのほう、か)とサイズだけでなく、画面分割や字幕やアニメも多用して、仕掛けだらけのセットにもびっくり。
テンポのよさ。あきれるようなお話の展開。お決まりの線ではなく、まさかのお話。ほんとうに一瞬たりともスクリーンから目が離せない怒濤の展開なのだ。描かれるお話はいずれも秀逸だけど、ベニチオ・デル・トロが演じる死刑囚である画家の話が凄すぎる。あまりのことに笑えるし、なによりもそれが楽しいのがいい。こんな幸福な映画にはなかなかお目にかかれない。